たぬきかきつねのロンサムサバイブ

 きつねの指し示した方向にずっと歩いていると、暗闇がだんだん薄れてきた。
 だが相変わらず霧は濃い。暗闇が薄れるにつれ濃くなってくる気さえする。
「この霧は何なんだろうな」
「世界の断片ですよ」
「世界の断片?」
「断片として蒸発して、それで無になっていくんです。最後は暗闇」
「よ、よく知ってるな……」
「まあ君より長く生きてますからね」
「長命ネタか」
「そうです」
「ずっと前から世界が蒸発していっていたなら、とっくに消えてしまっていてもおかしくはないんじゃないのか」
「蒸発と生成のバランスが取れてたから存続してるように見えてたんじゃないですか?」
「なんでそこ疑問形なんだ?」
「だって世界の正確な仕組みなんて僕が知るはずないでしょ」
「んー」
 また煙に巻こうとしているのか。
「お前、旅の仲間とか言う割には話とかよく誤魔化すよな」
「えーまあ普通に言ってもいいんですけどぉ、謎めいたキャラ崩したくないでしょ」
「え、そこ?」
「そことか言わないでください。対ヒト関係においても対獣関係においてもキャラ作りは大事でしょ」
「そうなのか?」
「そうですよ。たぬきくんは知らなかったかもしれませんけど」
「む」
「ははは」
 しかし霧が濃い。3メートル先すら見えない。それどころか足元すら見えない。
「あのさーたぬきくんって足元見て歩くクセありますよね」
「なんでわかる」
「だってずっとこっち見ないでしょ。目が合わないんですよぉ。あれ? って思って見たら足元見てるから」
「待ってお前この霧の中、俺のこと見えるのか?」
「まあきつねですし?」
「きつね関係ある?」
「神通力あるって言うでしょ」
 確かにそういう話は聞いたことはあるが……
「君が今眉間に皺を寄せてるのも見えてますよ」
「え、見るなよ」
「見えるんですもん」
「俺は足元すら見えないっていうのに……」
「……たぬきくん!」
「え?」
 踏み出した瞬間、踏み外す。
 浮遊。
 暗黒。
 無。
 そして俺の意識は落ちた。
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