英雄たちのロンド

『あなたは誰ですか』
「え、僕? 僕はしがない旅人だけど」
『僕は英雄』
「英雄? あの?」
『そう』
「英雄様がどうして僕に声なんかかけるんですか?」
『英雄とはどういうものか、わからないから』
「え? なんで?」
『僕はこの世界の者ではないから』
「この世界の者ではない? 魔界から来たとか?」
『違う』
「じゃあ天界?」
『それも違う』
「じゃあどこだよー」
『■■■』
「なんて?」
『検閲が入った、この世界でそれを口にすることは許されないようです』
「検閲? うーん、英雄様の言うことは僕たち民衆にはやっぱり理解できないな……」
『いけません』
「ん?」
『あなたは僕に、英雄とは何たるかを教えてくれないといけない』
「うーんそう言われましてもね……僕だってそんな親切じゃないし、うーん……」
『シンセツ?』
「えっそれもわからないのか」
『新しい雪ですか?』
「それを知っててなんで親切がわからないんだ……」
『英雄とは何なのか教えてくれるだけでいいんです』
「え、英雄とは何か? ……うーん、そういえば、何かって考えてみたことはなかった気がするなぁ……なんか、僕たちのことを守ってくれる偉い存在というか、強くて……」
『守る』
「そう、人間を脅かす者から人間を守ってくれるって」
『……』
「!?」
 英雄は空に跳び上がり、急降下。その尾びれを旅人の背後に叩き付ける。
「ななな……って、ホワイトウルフ……?」
『狼は一匹見たら群れで来る。気をつけて』
「気をつけてって言ったって……」
『それ、借ります』
「え」
 英雄は旅人の持っていた槍をすうと取り、振るう。
 銀の粉が舞い、周囲に寄ってきていたホワイトウルフが「狼」という文字になり、消えた。
「な、何したの?」
『概念化して、その後デリートした』
「うーんよくわからないけど助けてくれたのかな?」
『タスケル?』
「助けるっていうのはえーと、命を救うっていうか、僕を守ってくれたというか、そういう」
『守るならわかる。タスケタ』
「あーうん。ありがとう」
『礼はいらない。僕は英雄だから』
「君、ひょっとしてそんな怖くない人?」
『僕は英雄』
「うん」
『人間を守る存在、だからあなたのことも守った』
「やっぱ君って……その槍返してくれる?」
『駄目。あなたは弱い、この槍は僕が持っていた方がいい』
「えー、でもその槍ないと僕旅できないよ」
『大丈夫。あなたは僕が守る』
「えっ何用心棒してくれるってこと? あっ用心棒わかんないか。一緒に旅して守ってくれるってこと?」
『それも良い』
 英雄はこくんと頷く。
「良いのか……」
『良い』
「うーんじゃあお願いしちゃおうかな? でもそれ君にメリットある?」
『僕はあなたを守る。あなたは僕に、英雄やこの世界のことを教える』
「取引かぁ。いいよ」
『成立』
 キィンと青い光が走る。
「何、今の」
『契約』
「えっ何か僕契約しちゃった感じ?」
『そう』
「……」
『駄目だった?』
「駄目ではないけど、そういうのはちゃんと契約しましょうって言ってからするものだよ」
『わかった。契約しましょう』
「やってから言うのは遅いよ!」
『む』
「やっぱ君面白いな……第一印象冷たそうな精霊だったけど訂正するよ」
『僕は冷たい』
「ひゃ! つめたっ」
『ほら』
「そういう冷たいじゃないって、冷たいっていうのは、なんか、えーとなんだろう……」
『何?』
「えーと、情がないというか……優しくないというか……つれない……」
『優しくない、難しい精霊。わかった』
「あっなんか違うようなあってるような違うようなよくわからないけど、そういえば君の名前聞いてなかった、僕はルーク。君は?」
『僕はザ..ラ■■.縱?■ィ』
「なんて?」
『検閲が入った』
「ザーラクレィ?」
『それでも良い』
「うん、じゃあこれからよろしくザーラクレィ」
『よろしく』
 そんな一人と一人で二人旅が始まる。
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