短編小説(2庫目)

「どうなってる?」
 とお前は言ったが俺の方がそれを聞きたいよ。
 と思ったんだがお前は向こう側、俺はこっち側、そもそも俺の声はお前に届かない。向こうからの声しか届かない。

 塔を建てている。高い塔を。向こうからの声、お前の声を聞くために。
 お前は何も構わずにいつも走って行ってしまう。俺の声なんて聞いてもくれない。勝手に楽しんで、勝手に苦しんで、勝手に転がって、一人でいつも楽しそう。
 別にそれでもいいんだ。お前が一人で楽しそうでも、俺は毎日塔を積む。

 お前がやらなかったことの全てを俺が一人で引き受けているんだ。わかるか。なのにお前はいつも……
 違う。本当は違うことを俺が一番よく知っている。お前は俺のために存在していて、本当は俺のために全てやっている……お前にその気がなくたって、お前が一番俺のことをよくわかっているのは俺だって知ってる。
 けど……塔を通じてしか声は聞こえない。俺の声も届かない。俺は塔に「入力」することしかできない。
 そんな状態で意思疎通しろという方が無理な話だ。

 だがそもそもそんな意思疎通のようなことをやろうと試みることができる、それだけで、俺は「条件設定ができている」から良い方なのかもしれない。
 他のやつにそれはできない……できないやつの方が多い。
 しかし塔を建てなくても条件設定ができていなくても普通に暮らせる奴の方が「できている」のは当然の話。
 なんてことを、たまに考えてしまう。
 そういうのはよくないとわかっているのに。

 雪が降った夜、塔は何も変わらずにそこに立っていて、お前も何も変わらずにあの部屋で眠っていて。
 結局俺はどこにいるんだろう。
 わからないんだ。ここにいるのはわかっている、そのはずなのに、自分がどこにいるのかたまにわからなくなる。
 だってお前はずっと「あの部屋」にいるから。
 ずっとだ。
 あのことがあってから、ずっと。

 どうすればいいのかは正直よくわからない。このまま条件設定をして塔で交信しようと努力を続けるのが良いのか、それとも塔なんて捨ててしまって普通に生きるのが良いのか。
 いや、答えなんてとっくに出ている。
 交信の努力、それをしないとお前の存在がわからないから俺は結局やるしかない。それ以外の道は残されていない。それともやりたいからやっているのか、よくわからない。やらざるを得ないからやっているのか。
 どっちでもいいんだ、俺はこうしないと生きられないから。

 お前はあの部屋ですやすやと寝ている。
 お前がまだ生きているのは俺がこの世に繋ぎ止めてしまっているからなのだろうか。それとも、お前が俺を繋ぎ止めているのか。
 お前は本当は■■なのだろうか。
 わからない、わからないことになっている。
 お前の正体が結局何なのか、俺は何一つ知りはしないのだ。

 そんな風に、今日も明日も過ぎてゆく。
 塔を建てながら。
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