たぬきかきつねのロンサムサバイブ

 崩壊から逃げる旅の終点は世界の終わり。何もない北極点。
 視界の端からじわじわと「無」が浸食する。最後に残ったのは私一匹。
 私もまた、消えてしまうのだろうか。里の■■■たちのように。
 思えば逃げてばかりの獣生だった。里を出て、ヒト社会に交じって、旅をして、色々なことがあった。嫌なこと、嫌なこと、嫌なこと。嫌なことしかない。
 そんなことはいいんだ。
 でも、私だって満足に生きてみたかった。一度だけでいい、理想の「私」になって、大切な友達と二匹で生きて、喋って、一緒に旅をして、こんな孤独なんて消えてしまって、たわいない日常を送って、いつかくる終わりだって怖くなくなって。
 でも私は悲観的な生き物だから、その友達にも迷惑をかけてしまうかもしれないな。
 そうだ、その友達には最初から、私は君を嫌わないって言ってみよう。そうすれば、相手も私を嫌わないかもしれないし。名案だ。
 終わってしまう。終わってしまう。夢想するうちに終わってしまう。じわじわと、じわじわと、侵食、侵食、

>>

 浮上。
 私は海にいた。
 終わったはずではなかったのか?
 いや、違う。
 終わったのだ。
 身の内に力を感じる。終わった世界の残滓。
 世界を背負った■■■は一度だけ、何かに「成れる」力を得る。
 視界に入る、髪は金色。
 これは――。そうか、私は――になったのか。
 里にいたとき、ある日の一日、ふらりとやってきて少しだけ優しくしてくれた旅獣。
 そう思い入れはなかったつもりだが、無意識に強く思い描いていたのかもしれないな。
 私はもう■■■ではない。
 僕。そう、あの旅獣は僕と言っていた。
 もう一度生きることが許されるなら、理想の「僕」になれたなら。
 それでも世界は怖いけど、一度だけならやってみてもいいのだろうか。

>>

 新たな場所に来たからってそう簡単に変われるわけでもなかった。
 交わろうとしても僕は旅獣。■■■は異邦人。出自が違う後ろめたさが邪魔をして、どこにも混じれない。誰とも交われない。これでは前と同じじゃないか。
 努力はした。
 それなりに楽しみもしたと思う。
 だけどどうしても違う。何かが違う。埋まらない。埋められない。所詮は一匹。■■■は孤独。
 あの旅獣も、こんな孤独を抱えていたのだろうか。

>>

 崩壊が始まった。
 この場所にもいられなくなる。
 今度こそ僕も終わりなのかもしれない。
 全てが絶望だったわけじゃない。けれど、どんなことをしたって結局何もうまくはいかなかったって、僕を本当に受け入れる者はいなかったって、そういう孤独、どこかのっぺりとした、広く大きな絶望。
 それで終わるくらいなら最後にあの里、■■■の里を、一度くらい見てやってもいいかもしれない。

>>>

 ―—無。
 ここに来て「役割」をやっと理解する。
 遅すぎたんだ。
 もっと早くに来られていたら。
 来られていたら、何だっていうの?
 途方に暮れて辺りを見渡す。人影が一つ。生き残った■■■か? でもあれは、

◆◆◆

 ふ、とビジョンの洪水が終わって、
 俺は瞬きをする。
 ああ、これがきつねの。
47/51ページ
スキ