短編小説(2庫目)

 失くし物を探している。
 何を失くしたのかは知らない、だがずっと、その「何か」を探している。
 それは存在証明かもしれないし、あるいは喪かもしれない。正確なところはわからない。抜けてしまったからだ。
 人が抜けてしまったものを求めるのは普遍的な話。俺もその普遍的な道を歩んでいるというわけだ。
 失くしたものがどこにあるのか、あたりをつけてみようとして、地図を見たり写真を見たりしてみた。
 だいたいは海か、もしくは森。失くし物があるとしたらそこだろう。
 都会を探すのは苦手なので、都会にはないことにしておこう。
 それでもし都会にあったらどうする?
 そんなことを考えても仕方がない。都会にはない、とするしかない。
 しかし……それを見つけたとして、俺はどうするのか。■るのか、それとも問うのか。
 問う、何を?
 存在証明を? 喪を?
 それが俺自身のものなのだとしたら、どうして一人でやれないのだろうか。
 もしかすると、わかりきっている。わかりきっていることをあえて避けて語らない理由。
 そんなものがあるとは思えないけれど。
 ここで旅路には霧が出てきて、俺は道に迷ってしまう。いや、自分から迷ったのだろう。混迷は己によってもたらされる、全てのことが極論己に還元されうる……というのはどこかの学者が言ったこと。学者なのか? 知らないが。
 責任の所在。そういう話なのかもしれない。自己責任とやら。それだってもう古い論だと思うが。
 そんなことを考えていたら吐きそうになってきた。結局それも自分でやってるんじゃないか。
 知るか。俺は今苦しんでるんだ。それを余所からどうこう言ってくるんじゃない。
 余所とは俺の中の「世間」、妄想の世間である。妄想の世間は俺が弱ったときに出てきて、俺の思考をぶちのめす。
『探し物なんて本当はないんじゃないのか?』
『どうでもいいものに決まってる』
『そもそもなくした方が悪いんだ』
『■■したのが』
 もういいから静かにしてくれないか。歩きっぱなしで疲れてるんだ。弱ったやつにしか攻撃できないなんて寂しいやつだなお前も。
 ってさ。言ってもそれは自分自身だから、何にもならない。
 いつになれば見つかるのだろうか、だけどそれは一生見つからないことも「わかっている」のだし、見つけようとしてももうその手段がない、自分から絶ってしまったということも「知っている」のだし、こんな風に探し続けること自体もう無駄なのではないか、みたいなことを考える、けれど、俺は探し続けるしかないんだ。
 森を。海を。海溝を。
 なくしてしまったから。
 それがないと生きていけないから。
 諦めてでも。
 そんな話、
 だった。
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