たぬきかきつねのロンサムサバイブ

「覚悟、決まった?」
「……ああ」
「……うん。いい顔をしているね」
「いい顔かどうかはわからないけど、何がしたいかは決まった」
「そんな君に特別サービス、僕の知識を伝授しよう」
「知識?」
「――を得た勇者は姫と結ばれ国は消滅を免れる」
「それは何のあれだ?」
「歌だよ。僕が生涯かけて紡いだ歌」
「あなたは詩人だったのか?」
「うん、世界を旅して回る詩人だった。柱に選ばれて旅して回って、その後代替わりでも旅して回って、きつねくんと出会って、歌を聞かせたんだ……代替わりのためにね」
「……へえ」
「自分勝手だと思う? そうだよね。でも……当時の僕はそうするしかなかった、絶望していたって言ったら言い訳になっちゃうけどね……」
「……」
「だけど、世界に立ち向かえるチャンスはそれしかない。ベタだけど、ベタなのが世界。お約束が働くのが世界なんだ。無慈悲なように見えて、案外ザルだったりするものだからね」
「それが本当かどうかはともかく、やってみる価値はあるな……」
「でしょう。まあ、やってみたまえよ」
「わかった」
「さて、そろそろ時間だ。僕はここでお別れ。ほとんど話もできなかったけど……僕はきつねくんだし、きつねくんは僕だ。この空間が消えても……ずっと、応援しているから」
「ああ……ありがとう」
「いいえ。……それじゃあ」
 世界が、切り替わる。
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