たぬきかきつねのロンサムサバイブ

 静寂。
 無となった里。
 全ての始まりはここだった。
 会社をクビになって、電車に乗って帰ってきて、無になった里、消えて行った住民たちの記憶を前にして。
 そしてきつねと出会った。
 霧が立ち込めている。
 あの時の俺の心にもまた、迷いという名の霧が立ち込めていたのだ。とかいうとかっこつけすぎてるか。でも、
 生きるか、死ぬか。
 信じるか、信じないか。
『っていうか僕たちももう旅の仲間でしょ』
『僕は君を嫌いになったりしない』
 そんなことを言われたのは初めてだった。
 そうして俺は、「生きる」の方にシフトして、
『世界じゃなくて僕を信じてください』
『嫌ってくれと言われても嫌ってあげませんよ。きつねは不親切』
『僕は君に興味がある。君のことが気になってるんですよ、知りたいんですよ』
 きつね。
 それはもう俺の中で、無視できぬほど大きな存在になっている。
 それはもう俺の世界で、無視できぬほど多くの位置を占めている。
 きつね。
 そうか、俺は、きつねを。
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