たぬきかきつねのロンサムサバイブ

 景色が切り替わり、目の前には古びたローブに身を包んだ……男?
「君も抗うねぇ」
「誰だ、あなたは」
「僕は旅獣だよ」
「旅獣? そんな獣がなぜ今、ここに」
「先代の柱だからね」
「なん……柱は代替わりしたら消えるんじゃなかったのか」
「そうだけど、まあ、幻影みたいなものかな」
 つまり、化かされているのか?
「まあ、きつねくんの……最後の未練、って感じかな」
「未練……」
「僕なんかを生み出すってことは、まだ未練が残ってるって証拠さ」
「なぜわかる」
「だってそうだろ?」
 わかるだろ、と先代柱。
「……」
 わからなくて、周囲に目をやる。
 瓦礫、瓦礫、瓦礫まみれ。
 いわば、瓦礫の山、といったところか。
「ま、精神世界みたいなものだね。一時的に君はそこに避難してる、的な感じさ」
「ふむ……」
「僕がこの世界を維持していられる時間はそう長くはない。もって一晩。それまでに君は……」
「俺は?」
「決断しなければいけないんだ」
「決断……」
「承認して柱になるか、拒否してどこかに逃げて、世界の存続を拒むか」
「拒否なんかできるのか。機械が追ってくるだろ」
「まあ、隠すことはできる。僕はきつねくんの意志だからね。きつねは優秀、自分で自分を騙すのもわけないってことだろう」
「は」
 俺は笑ってしまう。いかにもきつねの言いそうなことだ。
「とりあえず、回想に連れてってあげるから、そこで考えるといい」
「あ、おい、」
 ぱ、と景色が変わる。
 選択権がないのはこちらも同じか。
 まあ、考えるさ。考えなければ、終わってしまうのだから。
 それだけが俺の取り柄なのだから。
 煉瓦の山から。
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