概念サバンナの今日たち

 夢。夢。夢。
 雪の降らない地方、なのに外は大雪。
 今日は家で眠らなければ。
 そんなわけで眠っている。
 眠っている、が、意識がある。
 夢を見ていた、サバンナの夢。
 サバンナでも雪が降っていて、ライオンが俺を見ていた、俺もライオンを見ていた。
 けれどライオンのことなんて見ない方がいい、早く、深い眠りに落ちてしまった方がいい、忘れてしまった方がいい。
 眠る、眠る、努力して意識を手放す。
 落ちていく、その狭間、ちらりとサバンナが見えたような気がした。



 雪原。
 雪を被ったライオンが立っている。
 戦え、と声が言う。
 失われた神の声。
 戦え、敗北は許されない。戦え、そんなライオンごとき、他と比べて小さく弱いライオンごとき。お前は恵まれた人間だ、そんなライオンなど何ということはない。お前は恵まれた人間、ゆえにお前はライオンと戦わねばならない。戦え、戦って勝て、さもなくば――
 目の前に槍が落ちる。
 これで戦えということか。
 俺はうさぎの穴を探す、当然穴も雪で塞がれていて、どこにあるのかわからない。
 仕方なく槍を拾い上げる。
 ライオンが大きく口を開けた。



 重い。何かが載っている。
 夢の中で俺はあっけなくライオンに負け、飛びかかってきたライオンがずしりと俺の上に載って。
 それじゃあこれはライオンなのか?
 眠い目を無理矢理開く、果たして身体の上には、
 何もない。
 丸まった黒い布団が一つ。
 寝相が悪くて丸めてしまった布団が身体の上に載っていたのか。
 夢の中の俺はどうなってしまったのだろうか。
 夢の中。
 それともここだってまだ、夢の中なのかもしれない。
 あの学校やサバンナと同じように、夢の中……
 ふよふよと視界が揺れる。
 睡眠不足か。
 これだけ眠って睡眠不足なんてことはないとは思うが、俺が俺であるがゆえに俺は万年睡眠不足だ。
 そんなことはどうでもいい、が、なおも視界はふよふよと揺れる。
 黒い布団、だったと思っていたものが動く、ぷよぷよとした黒い影。
「お前……」
 いや、「お前」じゃない。これは複数形だ。
 ぷよぷよの影たちは部屋にぽつりぽつりと点在し、俺を見ている……のかと思ったのだが圧を感じないのでこれはたぶん見ていない。
 どうなってるんだ。やっぱりここは夢の中なのか。
 何度も何度も夢を見すぎて夢と現実の境が曖昧になっている、ここも「狭間」なのだろうか。
 何でもいいようなよくないような。
 お腹の上のぷよぷよをつつく。
 ぷよぷよはふるり、と揺れた。
 俺はため息を吐く。
 カーテンの隙間から外を見ると、雪はもうやんでいた。
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