短編小説

 積んで、積んで、
「何積んでるのー?」
「表側だ」
「表側って積めるのー?」
「積めるぞ、表側だからな」
「裏側は積まないの?」
「裏側を積むと互いに干渉して吸い込み合ってしまうから積めないんだ」
「へえ……そっちの方が楽しそう」
「あっやめろひっくり返そうとするな、やめろ!」
「いいじゃん、減るもんじゃなし」
「減る! 吸い込まれたらパーツの数が減る!」
「えー」
「えーじゃない、せっかく表側を積んでるときに台無しにしようとするな」
「表側を積むって安定行動じゃん。つまんないよー。世界は揺らぎがあるからこそ面白いんだよ? 可能性がくるくるひっくり返るんじゃなきゃつまんない」
「お前はそうかもしれないが俺は安定してる方が好きなの。わかったら黙って見てるかどっか行け」
「ひどいなぁ。裏側を愛するものの気持ちを汲んでくれてもいいのに」
「お前は裏側が好きなんじゃなくて不安定なのが好きなだけだろ、騙るな」
「騙ってないよー。君こそ安定思考でつまんない、ゲームとかでも絶対適正レベル以上に上げて完璧な装備を揃えてから先に進むタイプでしょ」
「ゲーマーにしかわからない例えはやめろ」
「だって君ゲーム好きじゃん」
「好きだが」
「そういう遊び方してるでしょ」
「してるが」
「じゃあいいじゃーん! ねーねーもっと不安定を愛そうよ、不安定な道を歩もうよぉ」
「嫌だって言ってるだろ。人には人の道がある。お前だって俺が『安定こそ命だ安定を求め続けろ』とか言ったら怒るだろ」
「え? それは別にいいけど」
「いいのかよ」
「どうせ安定を求めたって不安定が来るに決まってるからね。そういう風にできてる」
「世界が俺に優しくない……」
「ほらほら手が止まってるよ? ひっくり返しちゃおっかなー」
「やめろって……でもなんか……やる気なくなってきた、やめる」
「いいの? やめちゃって」
「どうせお前もおやつが食べたくて絡んできたんだろ」
「ぎくっ……ソンナコトナイヨー?」
「そんなことあるだろ……片付け手伝え。見ないようにして袋に入れるんだ、見たら観測結果が確定して裏側が発現する可能性があるからな」
「言われなくてもわかってるよー」
 同居人はよそ見をしたまま表側をぽいぽいと袋に入れた。あっという間に表側は片付く。
 こいつこういう適当な作業だけは得意なんだよな。
「さーおやつおやつ!」
「やっぱり食べたかったんじゃないか」
「うっ」
「今日のおやつはクッキーだぞ」
「もしかして昨日の夜焼いてたやつ!?」
「それ以外に何がある」
「おいしそうだなーって思ってたんだよね!」
「そうか」
「そう!」
「俺は紅茶淹れるからお前は皿を出せ、表側にしろよ」
「わかってるって!」
 それから。不安定好きな同居人が裏側に皿を出すということも特になく、表向きの皿に表向きに置いたクッキーは普通においしかった。


(おわり)
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