短編小説

 雨が降っている。
「君の頭の穴にも水が溜まるねぇ」
「喧嘩売ってる?」
「売ってないよ」
「何のネタなんだ」
「落語」
「へえ……」
「興味なさそー」
「興味ないからな」
 実際興味はない。古典芸能に全く造形が深くないのが俺の特徴……とも言い切れない、どちらかと言うと欠点? とか別に思ってないけど、まあほんと、どうでもいい。
「投げやりなのは流行らないよ。無気力主人公が流行ったのは昔の話」
「つっても今も生き残ってるだろ無気力主人公」
「知ってるの? 読んでるの?」
「俺が無気力主人公だからある、あるものはある」
「君、主人公じゃないでしょ」
「俺の人生俺が主人公じゃなきゃ誰が主人公なんだよ」
「え、僕とか」
「はー? ふざけるなよ」
「ふざけてないよぉ。でもさ~君の人生で僕が大きな位置を占めてるのは真実でしょ?」
「そ、そんなことはない」
「どもってるどもってる」
「そんなことは、ないぞ!」
「はー面白。どうでもいいけど」
「どうでもいいのかよ」
「僕が問題にしたいのはこの雨がいつまで降るかってことなんだよ」
「止まないだろ、台風だぞ」
「この雨の中を帰るのやだなーって思ってる。傘壊れるし」
「カッパあるぞ」
「一着あっても意味ないでしょ」
「二着ある」
「なんで」
「いるかなーと思って持ってきた」
「変なところで準備がいいね君……」
「ほらカッパ着ろ、帰るぞ」
「あーはいはい、わかってますよ」
 手渡されたカッパを不服そうに着る友人。
「面白……」
「何か言った?」
「いーや?」
「言ったでしょー」
「いや今のお前すごい面白」
「何とでも。お礼は言わないからね」
「いやそこは言えよ」
「ありがとうございます!」
「言うの!?」
 俺も荷物の上からもそもそとカッパを着て、帰路につく。
「………!」
「雨で何言ってんのか全然わかんねー」
「最近台風リポーターめっきりいなくなったよね!」
「どうでもいいことを伝えようとするなお前は」
「どうでもいいことこそが実は一番大事なんだよー!」
「それはまあ、そうだとは思うけど」
「この雨の中でも君の声を聞き取ってあげてる僕に無限に感謝してほしいね!」
「確かにすごいな。何で聞き取れるの?」
「………から!」
「聞こえねー!」
「二度は言わない!」
 家の前で別れ際にさっき何と言ったのかもう一度訊いてみたが「知らない!」とドアを閉められてしまったので結局わからなかった。
 謎。
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