短編小説

 飛行機が飛んでいる。
 大きな音を立てて飛んでいる、室内にいるのに耳が割れそうだ。
 そういう環境なので仕方がない。そう、仕方がないのだ。
 飛んでいる姿が見えないのでそれが旅客機なのか爆撃機なのかわからない。聞き分けられるような知識もない。そもそもそのためだけに不快な音を何度も聞いて覚えられるような忍耐力もない。
 ばりばりと飛んでいる。
 その中で。
 天井が割れたら。床が燃えたら。僕が燃えたらどうしよう。
 考えてしまう。
 いやな光が溢れたら。何もかもが吹き飛ばされたら。意識が永久になくなったらどうしよう。
 考えてしまう。
 求めているなら良い、だが求めてはいない。
 そうなることはきっと苦しい、苦しいし理不尽である。理不尽なことは嫌いだ。なのでそうならない方がいい。
 しかし飛行機はばりばりと音を立てていて、止まない。
 その中で。
 もし機体が落ちてきたら。天井が割れたら。僕が砕け散ったらどうしよう。
 考えてしまう。
 恐ろしいことは何度数えても消えない、無くならない。目で見て確認しない限り「もしかしたら」の可能性は残る。
 それなら外に出て確認すればいいのだろうか?
 それでもここは住宅街だし木やら建物やらが邪魔して空は見えない、飛行機も見えない、結局恐怖は消えない。
 こんな秋の、良い天気で、良い風が吹いているのに僕は部屋の中、ただただ飛行機の音に怯えている。
 馬鹿みたいだと思うのに思考は去らない。
 僕が気にしすぎているだけ、きっとそう。
 なんでもそう。気にしすぎる。気にしすぎて自滅する。そうやって長い坂を転げ落ちてきた。
 そんなことはいい、この際どうでもいい、今問題なのは今上空を飛んでいるあれが落ちてきやしないか、爆弾を落としてきやしないか、それだけ。それだけに集中していれば。
 だが集中して何になる? 恐怖は恐怖、先述の通り、確認するまで去りはしないじゃないか。
 そうこうしている間に飛行機はいなくなり、静寂が戻る。
 じわりと恐怖がなくなっていく、そうして僕はそれを忘れる。
 けれども夜になってまた爆音が来て。
 繰り返す。
 そのように進んでいく、進んでいるのかどうかはわからないが進んでしまう。
 進んでほしくなどないというのに。
 飛行機は去らない。
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