概念サバンナの今日たち

 うさぎを忘れた。
 油断するとすぐに忘れる、忘れ去られた悲しみはぐるぐると回り、俺の思考を圧迫する。
 忘れている、から、自分がどうして悲しいのかわからない。どうして憂いているのかわからない。うさぎを忘れているから、うさぎの穴を塞いでいるから。
 サバンナに雪は降らない、けれどジャミングの雪は降る。ジャミングの雪は穴を覆い隠し、視界から消してしまう。その雪を降らせているのもサバンナ、俺自身なのだ。
 わかっているのにわからない。制御もできない、なぜならここはサバンナだから。サバンナは思い通りにはならない、自然は思い通りにならない、人間もまた自然だからだ。
 事実この世に思い通りになることなどというものはなく、たまたま自分の思い通りに動いている状態を「思い通りにできている」と思っているだけ、などと言い出したら全てのことが偶然になってしまうのでそんなことは言わない。ナンセンスだ。
 わかっている、わかっている。制御などできないことは。
 だから雪が降るのだろう……だからうさぎを忘れるのだろう。
 うさぎは死んだ、死んで、俺のいる場所に大きな穴を空けた。そんな事実すら俺は忘れてしまう、後になってから思い出す。
 死んだうさぎのことを考えようとすると、穴を視界に入れようとすると、視界が固まってフレームが動かない。そんなことが起こって、その状態で気を抜いたままでいると雪が降って穴を覆い隠し、そうして忘れてしまう。
 おそらくそんな感じになっているのだろう。と分析しているこの間にも俺はうさぎを忘れつつある。フレームの動きが鈍くなり、止まろうとしている。
 油をさすのだ。しかしサバンナに油はない。無理に動かし続けるしか手はないのか。油とは何か。油とは……わかっている、サバンナは危険地帯。油などどこにもない。
 それならこのまま動かし続けるしかないのだろうか。油の切れたポンコツのフレームを。
 わからない。わからないのだ。だから今日もライオンはこちらを見て、俺はそれに焦点を合わさぬようにしながら、姿を捉えた。
 天候は曇り。
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