短編小説

 星を眺めている。
 今日は七夕。
 七夕が晴れるか曇りになるかは当日になってみないとわからない。
 今日であるともいえるし、今日ではないともいえる。
 なにしろここ数日ずっと部屋に籠って寝ていたから、今日が本当に七夕なのかそれとも七夕じゃないのかいまひとつわからないところがあるのだ。
 スマホの電源はとうに切れている。
 振動が鬱陶しくて、新聞の下に押し込んだスマホ。
 その新聞も随分前から取っていない。
 何度夜が過ぎたか。
 最新の日付はいつなのか。 
 今日は七夕のはず、なぜならそんな気がするから。
 最後に日付を確認したのは6月の……中旬? 17日くらいだった気がする。そこからはもう曖昧。何か食べたような食べないような、寝ていたような寝てないような、外に出たような出てないような、全てが曖昧。
 くるくると時は過ぎ、まだ6月のような気もするし、もう8月になってしまったような気もする。
 けれど今日は七夕なんだ。そんな気がするから。
 何カ月かぶりにベランダに出て、星など眺めている。
 重たく雲がかかった空に、所々見える天の川。
 七夕はいつもこんな感じの天気だ。綺麗に晴れる日など滅多にない。
 毎年、七夕はなんとなく過ぎて行った。
 必死で仕事をして会社に行って、昨日七夕だったよななんて言われて気付く。
 いつも後から。
 小さい頃から、俺は七夕が好きだ。
 なんでも願い事を書いていい短冊なんて夢のようで。
 自分の願いを隠さず、曲げずに言ってもいいこと。
 それは俺にとってこの上ない幸せだった。
 けれどやっぱり隠してしまう。
 いつも無難に、世界が平和になりますようになんて書いて終わり。
 今俺が短冊を書くとしたら、「全てのことから解放されますように」と書くだろう。
 別に何か悩んでいるとか、つらいとか、そういうわけじゃない。
 ただ漠然と、解放されたいだけ。
 解放されたい。
 そう。
 蝶のように。
 待て。
 蝶なんて言葉、どこから出てきた?
 空を眺める。
 一面の星。
 雲は?
 ……七夕の空は快晴。
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