短編小説

 一度獲得した思考回路はなかなか外せない。
 だから今日も食べる、食べる。
 うどん、そば、天ぷら、お好み焼き、厚揚げ、スパゲッティ、食べる食べる。
 食べられる歳でもなくなっているのに食べる食べる、なぜか入る。その後お腹が痛くなる。
 もうわかってるんだ、何もかも。わかってるのにやめられない。
 食べて食べて食べて、その先には何もないってわかってるのにやめられなくて食べる食べる。
 忘れたいものがあるのかもしれない。埋めたい穴があるのかもしれない。だけど食べたって忘れられるわけがないし、埋められないものが埋められるわけもない。ただお腹に入って、消化されて、いなくなるだけ。
 空虚なのだ。
 それなのに俺はまだ食べることが好きで、ここまで来たら嫌いになりそうなものなのに、ひどく執着しているし、上等なものも買うし、試食もする。
 食べる、食べる。食べることだけが俺の全てだ。
 コンビニで買って、スーパーで買って、デパートで買って、食べる。そしてどんどん空になる。
 食べても食べても埋まらないから布団に潜って丸くなる。
 膨れた胃が重くて、昔はそんなことなかったのにな。
 食べたものは思い出せない。忘却の彼方に食物を置いて、そうして夢に入るのだ。
 何も食べぬ夢。
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