短編小説

「人間になれなくなってしまった」
「私はロボットの姿をした先生が好きですけどね」
「好き?」
「愛してるってことですよ」
「え、何、君……それは僕のこと?」
「ええ」
 イロはこともなげに答える。
 シキヤは立ち尽くした。ロボット教師が愛を告げられたときにどう対応すればいいかはマニュアルに載っていない。高性能な頭脳が必死に回転して、答えを探している。
「……こういうとき人間だったら、僕は生徒と恋愛しないことにしている、とか言えばいいんだろうが」
「ええ」
「残念ながら僕は人間ではない」
「残念じゃないですよ。私にとっては運命的です」
「君が予想外なことを次々言うから僕は困惑してしまう」
「私のせいで先生が困ってるの、すごくいい気分です」
「君ねえ……」
「悪い子ですからね」
「君はいい子だ」
「悪い子になるんです。先生は悪い子は嫌いですか?」
「悪い子は好きだよ。教え甲斐がある」
「じゃあ両思いですね!」
「そ、そうは言ってないだろう」
「悪い子の私はロボットの姿の先生が好き。先生は悪い子が好き。ほら、ウィンウィンじゃないですか」
「いや。そもそも子どもをいい子と悪い子に分けて考えるのはよくない。教師としてはどの子にも平等に接しなければ」
「はー真面目。まあそういうところが好きなんですけど」
 う、と言ってシキヤがまた固まる。
「僕は……」
「先生が私のクラスの担当になることはないんですし、時々遊んでもらえれば私は満足ですよ」
「そういう公私混同するようなことは、」
「ええ? 今だって一緒にこんなところに潜ってるじゃないですか。それは公私混同じゃないんですか?」
「う」
「大丈夫、外に遊びに行きたいとかは言いません。知り合いに見られたりしたら面倒ですし、そういうのは卒業してからで結構です。だからおうちに呼んでください」
「僕の家に?」
「ええ」
「それくらいなら問題ないけど」
「やった! 約束ですよ」
 イロは小指を差し出す。
 シキヤが首を傾げる。
「私の故郷の風習ですよ。約束するときに小指を絡めて歌を歌うんです」
「それは……興味深いな。今度詳しく聞かせてくれ」
「ええ」
 シキヤとイロの小指が絡まる。
 イロが歌を歌って約束は成された。


(ロボット教師シキヤ・おわり)
69/190ページ
    スキ