短編小説(2庫目)

 対人関係が苦手だった。
 対人関係だけじゃない。対ライオン関係も、対■■関係も苦手だし、よくない。
 それだから俺はこんな、引きこもっているのだし。
 世界が滅んでも俺の部屋は滅ばずに、相変わらず生きているし、のっぺりと食べたり寝たりして過ごしている。
 冷静に考えると世界が滅んだのにライフラインが止まらずに食料も無から湧いてくるのは明らかにおかしい。
 だが、そういうことを考えると負けな気がして、思考を回しはするが究明はしないまま過ごしてきた。
 何年経ったかな。五年ぐらい?
 知らない、興味がない。そもそも世界が滅んだのに時間を気にしてどうなる? どうもならないだろ。ナンセンス。それなら考えない方がましというもの。
 何でもいい、はずなのに、ネット上では人間が生きていて、人間なのか電子生命体なのか、わからないけれどやり取りをしている。
 そこでも俺はやっぱり対人関係を気にしていて。
 もしかすると今ここにいる俺はその電子生命体が見ている夢で、本当は俺なんてものはいないのかも。
 そうだったらどうする?
 それはそれで怖いので、やめてほしい。
 だが世界なんてそんなもので、他者がいなければ俺は存在しないのと同じ。その他者が電子生命体であっても人間であっても結局は同じことだ、コミュニケーションが取れさえすれば何でも。
 そんなコミュニケーションに、難があるのだ。世界が滅んだ後までコミュニケーションに悩まされるとは思わなかった。
 具体的にどう難があるか、まあ、相手に嫌われたくない、で、どこかで見てきた他人の真似を無理してやって空回りする、それにつきる。
 毎日ぐるぐる考える、そんなことをしても一人じゃ何も解決しないし、問題解決しようとして向かうはずの医者も滅んでしまったので何もできない。
 思考に必要なものは湧いてこないが生活に必要なものは湧いてくるのでいいのだろうか。
 よくないが。
 やっぱりここは夢なのかもしれない。夢だったら夢だったで、夢の中でまでぐるぐる悩んでいる俺は何なんだ。
 待った、そんなことを考えたら負けなんだった、そうだろう。
 最近の俺はよく設定を忘れてしまうのでよくない。背景設定を忘れて、今の俺がこの俺であるというその現状だけを見て考えてしまう。
 物事には全て背景が存在するというのに。
 その背景が見えない、というのも、俺が対人関係が苦手な理由ではあったのだが。
 対ライオン関係でも同じだ。ライオンには言葉が通じなくていつもにじり寄ってくるだけだが同じだ。あれに嫌われているのか嫌われていないのかは気にしても仕方がないが、たぶん嫌われているからこそにじり寄ってくるのだろう、いや、好かれているからにじり寄ってくる可能性もあるが。
 いやそんなことは知らない。ライオンがなぜかにじり寄ってくるその意図について考えてもどうしようもないだろう。たぶん食べようとしてるんだよ、たぶん。なんて考えるのはライオンに失礼? 知るかそんなことは。どうせライオンなんていないんだ、全部俺の夢なんだ、そのはず。
 そのはずなのに、ライオンは確かにいるんだから困る。
 狂った者にとって狂った世界は正常で、幻覚幻聴は確かに存在している実在物なんだ。だから困る。
 まやかしのはず、と思っているのに脳がそう思ってくれないんだな。
 ここにいる俺の存在も、俺が生きていることも、そうじゃないか。
 ああ、考えたら負けってわかってるのに。
 俺は対人関係ができない。こんなふわふわした夢の中でもそれは同じで。
 終わっていた、石を積んでいた、けれどそれは何もならず、つぎはぎのままここにいる。
 それを認めることこそが夢から覚める鍵だって、現実を生きる鍵だって、そんなことを言われても、夢は現実、現実は夢、脳には区別がついてないんだからだめなんだ。俺は生きるしかない、この滅んだ世界の一人の部屋で、対人関係が苦手だとか言いながら携帯食料を食べて水とか飲んでネットを見てなぜか生きてるライフラインに感謝したりしなかったりしながら。
 旅には出ない、亀にもならない。
 そんな夢で、今日は終わり。
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