短編小説(2庫目)

 花の家族の中で生まれた。
 我々花はヒト型で、身体に花が生えている。
 
 花以外の種族は我々の花に惹かれる性質があった。
 しかし我々花側は同意なく身体の花を毟られることを屈辱だと捉えており、花に触れられることすら嫌った。
 同意なく我々の花を毟ることは我々への加害であると最近は判断されており、同意なき花の収穫は禁じられていた。
 法があるとはいえど、ずっと隷属種として扱われていた我々の地位は低く、影で花を毟られたり、毟られても「同意があった」ことを捏造されて罪に問えぬことも多かった。
 
 他の花たちの例に漏れず、私も多種族を惹き付ける花だった。
 私の花は何度も同意なく毟られた。
 最後に毟られたときに細菌が入り、私は病気になった。
 
 病気になった私は家族の元に戻り、療養をすることにした。
 病気は身体を侵し精神を侵し、まともに他者と接することができなくなった私は十数年外に出ずに過ごした。
 
 薬を飲み、長い休養を経てようやく私は元気になって、家族のことを手伝い始めた。
 花の家族の中ならば安心だ。花は花に惹かれることはないし、花を毟られることもない。
 そう思って。
 
「…………」

 花を一つ失った私は立ち尽くす。
 どうすればいいのかわからなかった。
 「花は花に惹かれることはない」
 「花の家族の中ならば安心」
 どうしてそう思っていたのだろう?
 
 恥。屈辱。惨めさ。これ以上生き続ける意味。
 それらが私を苛んだ。
 「花は花に惹かれることはない」。きっと言っても信じない。
 
 暗い部屋の中で遮光布を被り、私は考える。
 恥、屈辱、惨めさ、これ以上生き続ける意味。
 己の命を消したくてたまらない。
 これ以上生きることは屈辱だ。今すぐ……
 だが。
 ふと、思考が差した。
 なぜ、私が死ななければいけない?
 なぜ、私が苦しまなければいけない?
 そうだ、その通り。私は何も悪くない。
 悪いのは■、ただ一輪じゃないか。
 

 
「花を殺すような花には見えなかった」
「優しい花だったのに」
「きっと介護に疲れたんでしょう、痛ましい事件だ」

 正解だ、満点だ、それこそが真実です。
 私には何も起こっていない。
 惨めでも何でもない、介護疲れの不幸な事件。
 だからこれは、めでたしめでたし。
 
 ――そんな話。
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