たぬきかきつねのロンサムサバイブ

「……すみません、言いすぎました。誰においても自由に考えることを禁じられていいはずがない。僕は……」
「きつね、」
「あーどうも調子狂いますね。この村が面白くなかったのがいけないんですよほんと。住民を無が消しきってるなんて思ってなかった、侵食が早すぎるから」
「……無はたぬきの里だけじゃなかったのか」
「この村を見ると、どうもそうじゃないみたいなんですよね」
「……ああ」
 俺は周りに目をやる。元・たぬきの里と同じような、濃い霧。
「こういう場所、他にも発生してるんだろうか」
「可能性はありますねぇ。ま、他のとこに行ってみないとわかりませんけど」
 そういえば、化かされていたとき、子供は「世界が無になって」と言っていた。化かされていたことの全てが嘘とは限らない。それだって真実かもしれないが、
「世界は……無になりつつあるのか?」
「……」
 きつねは黙る。ややあって、
「わかりません」
 と言った。
「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれない。たった二例だけで決めるのは早計です」
 そう言ったきつねの顔には、表情がなかった。こいつも世界が無になるなんて事実はショックだってことか。
「ま、旅は旅ですよ。世界が無になりつつあるからといって、楽しい旅まで無になるわけじゃありませんから」
 続けましょ続けましょ、ときつね。
「だが……もしそれが本当だとしたら、安心できる場所なんて存在しないんじゃなかろうか」
「フン」
 きつねは笑った。
「いつの世にも例外はあるものですよ。そもそも世界無化説は仮説だし、もしも真でも何かが起こって止まるかもしれないじゃないですか。希望を捨てちゃおしまいですよ、たぬきくん」
「そうだろうか……」
「不安なんですかぁ? じゃあ世界じゃなくて僕を信じてください。大丈夫、きっと何とかなりますよ。僕が言うんだから間違いない」
「その自信はいつもどこから来るのか不思議だよ」
「何せ、きつねですから。きつねは常に自信満々なのです」
 ふんす、と胸を張るきつね。
 その顔にはさっきまでの危うそうな雰囲気の欠片も残っていなかった。
 まあきつねはいつも別の意味で危うそうな奴だけど。
「今何か失礼なこと考えてます?」
「いや、全然」
「ふうん?」
「……」
「考えてるでしょ!」
「考えてない!」
「ふうん……」
「じっと見るなよ落ち着かない」
「じー」
「やめろよぉ」
「じー……」
「やめろ、ほんとやめて」
「はっはっは。おもしろい」
 俺で遊ばないでほしいんですがねえ。
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