短編小説(2庫目)

 ――「それ」は俺がやったんじゃない。
 ■■の供述は要領を得ぬもので、我々としても困惑するよりほかはなかった。
 ■■が森を一つ埋めたのは紛れもない事実であり、その事実によって森に棲むアレキシダケが一つ埋まってしまい、尊い■が失われた。
 我々はそう述べている、にも関わらず、■■はそれを認めようとしない。
 ――俺がやった、けれども俺がやったんじゃない。確かに俺は森を埋めたがそれをやったのは俺じゃない。
 ――どっちなんだね、君。
 ――俺がやったんだが、俺はやっていない。
 ――はっきりしたまえ。
 ――違うんだ。
 何が違うのか、と問うてもふにゃふにゃとした理屈を述べるのみで全く要領を得ない。
 理解できない。
 異常者であるとして片付けてもよかったのだが、そうすると外れ値を増やすことになる。これまで辿ってきた道の関係上、どうしても、正常なデータとして組み込む必要があった。
 ――君がやったんだな。
 ――俺じゃない。
 何時間、何日過ぎても同じことだった。
 なので我々は状況を再現することにした。
 ――ここに一つ、森を作った。もちろん本物ではなく、仮想のものだ。……君はそれを今から埋めてくれ。
 ――……。
 ■■は何も答えなかった。
 ――聞こえているか? 体調が悪いのなら別の日に回しても良いが。
 ――……てことを。
 ――?
 ――なんてひどいことを。そんなことが俺にできると思うか? か弱い森を埋めるなど、俺にできるわけがない。俺、にはできるかもしれないが、今ここにいる俺に森を埋めることなど。どうしても埋めたければ別の奴を用意するんだな。
 ――だが君、どうして。君は森を埋めたかったから埋めたのではないのか。
 ――そんなわけがない。森を埋めるのは禁忌だ。木々はもちろん、埋めたせいで一つの茸まで失われてしまったとなると大罪だ。一般的にはそう。そういう禁忌がどうにもならない限り、森を埋めるなど俺にはできない。
 ――それならどうして君は、森を埋めたのかね?
 ――俺じゃない。
 ――またそれかね。
 ――森を埋めたのは俺じゃないんだ。俺じゃない。俺だけど俺じゃない。わかったら、そんな残酷なことを俺に言い付けるのはやめてくれ。
 ――残酷? その必要があったから森を埋めたのだろう? やむを得ない事情があったから埋めたのではないのかね?
 ――違う、俺は……違うんだ、違う、違う……
 ――君。
 ■■の様子が不安定になったので、その日の試行はそれで打ち切りになった。
 ■■はそれからも変わらず、俺は森を埋めていない、と主張する。
 我々は仕方なく、■■を別途再現し、仮想の森を埋めるかどうかの試行を繰り返してみることにした。
 ――それが、今ここにいる君なのだよ。
 どうでもいい、と■■は言った。
 ――俺は森を埋めていない。
 そうかね、と我々は言った。
 試行は今も続いている。
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