「……ーレムの能力を与えよう！」
「俺はそこで何をすればいいんですか？」
「……れば良い」
「え？」
「では、さらば」
「ちょっと！」
　視界が白く染まる。意識が遠のく。
　気付くと荒野に立っていた。
　状況整理。
　色々あって昼間にカーテン引いて眠り続ける生活をしてたらなんか真っ白な世界にいた。
　それでなんかハーレムの能力を与えようとか言われて、これは何か要求されるクチだなと思って、使命を聞いたら聞き取れなくて、気付いたらここに……
　全くよくわからない。元いた世界はどうなったんだ？ そもそもこんな荒野に放り出されて生きていけと言う方が難しいのでは？
　っていうかハーレムの能力って何だ？ 典型的なパターンだと美女がいっぱいこう、でもそれは困るな。俺コミュニケーション苦手だし……女でも男でもいっぱい来られると対応できない。誰から話せばいいのかわかんないし。あっでも一対一でも何話せばいいのかわかんないし、結局は誰とも接したくないんだよ。だからあんな生活してたわけだし。
　うん。
　落ち着こう。
　人と接したい接したくないは置いといて、ともかく何か食べ物とか水とか雨風凌げる場所などを見つけないことには死ぬ。
　いや俺はそもそも死にたかったんだっけ？
　どうだったかな。覚えていない。過去のことは何もかも薄い靄の中、ぼんやり夢うつつ、実感も何もない。
　まあいいか。サバイバルだサバイバル。

　と開き直ったのはよかったのだが、
「何もない！」
　歩いても歩いても茶色の大地と枯れた木が広がるばかり。空は薄曇りで涼しいが、日が出てきたらどうなってしまうんだ。持ち物は家で着ていたジャージにサンダルだし、サバイバルする格好じゃないだろこれ。
「無理では……？」
「とお思いのお兄さん！」
「うわあ！？」
「お得な蟹との契約セール！」
「今なら呪いで契約し放題！」
「あんな蟹、こんな蟹！」
「よりどりみどり、契約し放題や！」
「お兄さん珍しい呪い持ってるね～どこ産？ っていうかこの世界まだ人間生きてたのウケる」
「蟹の存在意義、今こそ果たす時」
「お兄さんどう？ 契約しない？」
「いや……」
　契約って？ 蟹って？ なんでこんなところに？ 呪いって？ 人間って？
「ピーンお兄さんのその疑問！ 内緒です」
「内緒！？」
「そのうちわかるわぁ」
「蟹との生活楽しいよ～いにしえ、蟹に選ばれし人間は皆救われたという！」
「選ばれし人間に寄り添うことこそ我々の使命」
「ちょっとみんな、教えすぎ！ さ、お兄さん、契約しよっ」
「え……あの……」
「「「「決まり！」」」」
　謎の光が何重にも輝き、俺の左手薬指に収束してゆく。
「契約は為された」
　光が収まり、俺を囲むのは4匹の蟹。
「いっぱい冒険しようねお兄さん！」
「ええと…………よろ……しく……？？？」
「よろしく～！」
　そして、俺と蟹たちの冒険は始まってしまった。

　
（だいぼうけん）