文披(ふみひらき)31題

 ぱちぱちと音を立て、静かになって落ちる。
 人生の終わりのようだった。
 


 潮時だという自覚があったので、どのコミュニティからも離れた。
 最後にこうして誰もいない公園で一人、線香花火をやっている。
 引退するには若すぎるが、引退をしたのだ。
 日に日に物価は上がり、出ていく金が多くなる。
 収入より支出の方が多くて、やがて来る終わりに怯える。
 そんな日々が嫌になって、引退することにした。
 何を?
 「線香花火」を。
 生まれて、燃えて、静かになって、落ちる。それが「線香花火」。
 燃えた時期なんてあったっけ、と考える。
 あったのかもしれない。例えば学生時代とか?
 さあ。
 いずれにせよ、俺は多くを背負いすぎたのだと思う。
 同じものを背負った奴等はことごとくいなくなった。耐えられなかったのだろう。
 遠くにいる■は幸せに暮らしているらしい。罪を忘れているらしい。
 愚かだ。
 俺が愚かなのかもしれないし、■が愚かなのかもしれない。
 きっと何もかも愚かだったのだ。
 今更取り返しもつかない。
 花火はぱちぱちと燃える。
 色々なことを思い出す。
 雪、海、山、太陽。
 それらは全て、過去のことだ。
 ここには生ぬるい夜とバケツと、燃える線香花火しかない。
 何もかもが遠くて、別の人間の記憶のようだ。
 それでも「終わり」は来るのだから、そのように。
 最後の花火が尽きたら、引退しよう。
 また、火をつける。
 花火は燃える。
 涙も出ない。
 どこでどう間違えたのか、いくら考えても答えは出ないし、それなら考えない方がずっとましだったのだろう。
 明日の世界に俺はいない。
 線香花火だった。
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