たぬきかきつねのロンサムサバイブ

「ここも霧が濃いな……そして全然人気がない」
「さみしーですねぇ」
「見晴らしの良い場所を探すか、そういうのセオリーだし」
「ねえねえ、あれ見張り台じゃないですか?」
「え、どこだ」
「あそこ」
 狐が手で指し示す先は、
「見えない」
 霧が濃い。元・里でも思ったけどこいつ相当目がいいな。
「困ったたぬきくんですねぇ。まあ、あっち向かって歩いてたら見えてくると思いますけど」
「そうか」
「ええ」
 てくてくと歩く。霧がすごいから時間帯とかあまりよくわからないが、たぶん昼だ。それにしては村は静かで、でも、静かなのは霧が音を吸収してるからかもなと俺はポジティブに考えた。
「あーあれか見張り台」
 木製っぽい感じで板の階段がついてて上が踊り場みたいになってるよくある感じの見張り台だ。
「ようやく見えましたか。目が悪いと生きるの苦労しますよ?」
「お前が良すぎるだけな気もするが」
「きつねは目がいいんですよ。視野の狭いたぬきくんとは違ってね」
「ナチュラルにdisるのやめろ」
「あっはっは、おっかしい」
 こいつ。
「ほら、着いたぞ。探索するんだろ」
「よし、上りましょ上りましょ」
 俺を促すきつね。ほんと先頭に立ちたがらないのな。
 よいしょと階段を上る。普段は息切れするのに今日はしない。なんでだ? インドア派サラリーたぬきは体力ないぞ? ひょっとして旅してるうちに体力ついたのか?
「ちょっとーもうてっぺん着いてますけどぉ」
「あ、ああ」
「やっぱ一望できるように作られてますねぇ」
「そうだな」
「視野の狭いたぬきくん、ちゃんと首を動かして広い範囲を見るんですよ」
「わかってるって」
 首を動かすってどうやるんだ?
「はい背筋伸ばして」
「む」
「首も伸ばして」
「おう」
「あご引いて、視線を上げる」
「こうか? ……おお。なんかいつもより色々はっきり見える」
「でしょ? 姿勢は大事なんですよ」
「そうは言ってもお前だってそんな姿勢がいいってわけじゃないだろ」
「だって姿勢よすぎるきつねとか全然雰囲気ないじゃないですか。侍じゃないんですから」
「たとえが独特だな……」
「なんてったって」
「長命アピールはわかったから」
「ふふん」
 なんでそこでどや顔するんだ?
「しかしこの村暗いな」
「どんよりですよねぇ。……好きじゃないな」
「ん?」
 視界の端で何か動いた気がした。
「あれは」
「どれですか?」
「ちょ、急ぐ」
「え、あっちょっと」
 俺は駆け出した。きつねが後ろで何か言っていたが、耳に入らなかった。
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