蛇を積む

 何がどこに行ったか、把握するだけでも結構難しいのにこんなばらばらになった思考が元はどうだったかを把握するのは相当だ。

 蛇に言われてペットボトルを積んでいたのだが、全く積み上がらなくて俯く。
 それはそう、ペットボトルは厳密には立方体ではなく、丸みがある。完璧な角にしてしまうと危ないとか、耐久性に問題があるとか、たぶんそういうことだろう。
 そんなものを積み上げ続けることなど最初から無理だったのだ。

 無理な仕事を任されるのは俺は嫌いだ。好きな人はあまりいないかもしれないが、いるにはいるだろう。
 自分に自信がある奴とか。
 俺はない。自分に自信とか、今時ある方がすごいんじゃないか?
 なんてことを言うと蛇に叱られる。
「自分に自信を持たなければいけないだろう」
「自分を好きになれない奴は他者のことも好きになれないのだぞ」
 まあ、この調子。
 耳タコである。
 なので俺はペットボトルを加工して、耳当てのようなものを作ろうとして、勤務時間に何を作ってるんだと怒られるわけだが。
 もうそんな狂気のような行動に走ってしまうほど限界になっている。
 そもそも人間自体が少なくなってしまっているのにこんな世の中で何をしろっていうんだ?
 全部蛇がやればいいのに。
 まあ少なくなっているというよりは、表に出ていないだけ。
 人間の大多数は貧困に落ちてしまって、スラム街で生きている。
 スラム街に行かないと人間には会えないというわけ。
 俺は蛇に魂を売ったので、なんとかまあ、そこそこの暮らしをしている。
 仕事もそんなに苦ではないし。
 スラム街に住んでいる連中からしたら、仕事があるだけありがたいだろう。俺なんてまだまだ贅沢な方だ。
 人間が魂を売ろうとしてもそんな汚いものはいらないと言われて買ってもらえないこともあるしな。
 まだ育成しようとしてくれているだけましなんだ、俺の上司は。
 たぶん。

 そんなわけで、ペットボトルの塔を積む。
 何のためにそんなことをしているのかなんて蛇じゃないからわからない。魂まで売ったのにな。
 結局蛇のことなんて、種が違うんだからわかるはずもない。
 理解しようとして堕ちていった奴らがたくさんいた。気が狂って、だめになって、死んでしまう。
 理解しようとする方が間違っている。
 そういうもの。
 そういうものなのだ。
 蛇は。

 なので俺はできるだけ何も考えないことにしている。
 この世界がどうしてこうなってしまったか、とか、どうすれば俺は普通に生きていくことができたか、とか。
 人間の「普通」じゃない、蛇の「普通」。そんなことを考えてしまう時点で俺は中途半端で、魂を売っているんだろう。
 終わってしまった。
 人間として。
 スラム街の連中には顔向けできない。

 いつか革命が起こるとしたら、そのとき俺は死ぬだろう。
 蛇に魂を売った反逆者として。

 今日も積む。
 きっと明日もこのままだろう。
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