短編小説(2庫目)

 届かない荷物がある。
 そもそも頼んでいないのに届くはずがない。
 入り組んだ街、辿り着くのは困難、何も注文していない昼下がり。
 俺は久しぶりに紅茶を飲んで、おいしいなと思いながらもずっと前から空いたままの虚無に心が呑み込まれていくのを感じていた。
 止まらない。

 ずっと前に■を落としてきて、そのこと自体はもういいんだが、関連した記憶が止まらない。
 ごちゃごちゃした記憶の山。冬、寒い部屋、一人で布団を被って震えていた俺の頭の中に何があったのかはもう覚えていない。
 あるのは捏造された感情だけ。
 寂しかった。
 苦しかった。
 助けてもらいたかった。
 そんな声が響いている。
 窓に貼った段ボールの向こうからの声はもうしない。きっと今は休んでいるのだろう。声にだって都合があるからな。
 俺の記憶の声にも都合があって、今は都合が悪いから逆に呼んでいるのだろう。
 助けなんて来ないことは俺が一番よく知っている。
 なぜならそれは過去であって、過ぎたことであって、確定した過去に助けなんて来る方がおかしいからだ。
 助けに行くだけの気力もない。
 俺は昔と同じようにこの部屋で布団を被って寝ているだけ。
 違うのは部屋が暖かくなったことと、食べ物があること。
 食べ物を買いに外に出ることすらできなかった頃よりはずっとましになった。
 けれどもやっぱり虚無の穴は空いていて、隙あらば何もかもを呑み込もうとする。
 油断がならないんだ。
 防ぐ手段があればいいんだがな。

 イマジナリーフレンドもみんな黙ってしまって、ただ部屋で紅茶を啜っている。
 やっぱり俺は一人なのかな。

 記憶がざりざりと音を立てる、不具合が出ている。
 寒いと、お腹が空いていると、一人だと、思い出す。
 暗い部屋。外の吹雪。
 俺は紅茶をもう一口飲む。
 今は暖かい。お腹も空いていない。
 何も心配することなどないはずなのに、どうして俺は回しているのだろう。
 わからなかった。
 できることもなかった。
 動けるか動けないかなんてそのときになってみないとわからないし、何かをしようと思う気持ちすら湧かないことだってある。
 それはやはり■■なのだろうか?
 わからない。何も。
 なので俺は虚無をくるくると回し、ボールにして遊んだ。

 荷物は届かず。
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