英雄たちのロンド

「今日も元気だ茶がうまい」
 縁側に腰掛け茶を飲むは引退した勇者=魔王の英雄、リムダール。薄緑色の目を細め、庭の景色をのんびりと眺めている。
 他に人がいれば流れる銀髪が日の光に照らされきらきらと輝くさまを見つめため息をついたことだろう。引退はしたが魔王の魅了は健在で、普段は制御しているがときどきいたずらで発現させてみたりもするのは元魔王ゆえか。
 茶を飲むリムダールの脇にはしっかりとお菓子。それもエイティーン・トゥエルブの新作スイーツである。
 彼はおいしいものやお菓子が好きで、勇者=魔王として世界を旅していた頃から激しい戦いの息抜きとして隠れて買って食べていた。だがしかし仲間は気付いていたようで、英雄伝説にはスイーツの話が必ず盛られており今も誕生日やバレンタインにはマカロンや新作チョコ菓子などが贈られている。
 んー、と伸びをし、リムダールはスイーツの脇に置いてあった端末を手に取る。すーと画面をスクロールし、
「ん?」
 止める。眺める。もぐもぐ。スイーツが空になる。
「ごちそうさまでした」
 リムダールは湯飲みとスイーツを流しに置き、コートを羽織った。
 そして出かける。



「英雄何するものぞ! 真の魔王になるは我ぞ!」
 広場の中央。山羊のような角と漆黒の翼を持ち禍々しいオーラを放つ一人の魔族が騎士団と対峙している。
「ちょっと何ですかあなた、落ち着いてください!」
 魔族が手を広げると突風が吹き、周囲の騎士たちがはじき飛ばされる。
「何だこれは……誰か、近くの英雄を呼べ!」
「呼ばれて飛び出て英雄さんじょう~我が名はリムダール!」
「リムダール? ああ、勇者とダブルクラスであったできそこないの先代魔王か。笑止。我こそ真の魔王ぞ。運命から逃げた引退者は引っ込んでいろ」
「ははーん、何とでも言ってくれていいけど街で暴れるのはよくないぜ」
「笑止!」
 魔族の放った衝撃波がリムダールをとらえるが、しかし、リムダールは顔色一つ変えず立っている。
「何!?」
「お前、風使いか? 体力削って風出してるでしょ。魔王じゃないんだからそういう無茶なことするのはよくないぞ」
「何を言う! 我こそ魔王ぞ!」
「えい」
「ぐっ」
 一瞬で背後に回り込み首筋に手刀。ぐったりと崩れ落ちる魔族を支えるリムダール。
「よっと」
「お待たせしました、英雄参上……ってあーーーーリムダールさん!」
「おー、来たかウオリア」
「来たかじゃないですよ! リムダールさんは引退した身なんだからこんな騒ぎの場に来ちゃだめでしょ!」
「いやでも街の危機は止めるだろ普通。勇者=魔王は引退したけど俺まだ英雄だし?」
「いやいやいや……」
「それに俺来てなかったらたぶん街破壊されてたしぃ」
「むむむ……」
「助かりました、リムダールさん」
 騎士が礼を言う。
「いえいえ~」
「サンキューリムダール!」
 広場の店からおやじが顔を出し、手を振る。
「またうちの新作ケーキ買ってってくれな! サービスするから!」
「わーい、これ終わったら寄ります!」
「リムダールさぁん……」
「ん~、ウオリアもケーキ食べるか?」
「いえ……俺はその魔族尋問しないといけないし」
「あ、俺も行く」
「えっ」
「ウオリア厳しいしこいつのこといじめそう」
「む、人聞きの悪い! 俺は捕虜には優しいんですよ!」
「そうかなあ、でもついてく」
「リムダールさんが来てくださるなら騎士団としても助かります!」
 敬礼しながら、騎士。
「ほら、騎士さんもこう言ってるし」
「むむむむむ……」
「行くぞウオリア」
「むー!」
 むーしか言わなくなったウオリアを連れ、騎士を連れ、リムダールは魔族を背負っててくてくと歩き出す。



「魔王代替わりの儀ィ!?」
 それがちょっとした冒険の始まりになるとは思いもせず。
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