英雄たちのロンド
「ようそこの蟹を頭に載せたお兄さん、本見ていかない?」
「本?」
「今話題の英雄作家の書いた本だよ、絶妙に重い設定がツボ」
頭の上に載せていた蟹が身を乗り出す。
「へえ、そういうのもあるんだね」
「あんまり乗り出すなよ、落ちるぞ」
「落ちないもーん、大丈夫です」
「しゃ、しゃべった……!?」
「あ、俺の蟹、喋るんですよ」
「へえー! そんじゃ君、英雄様?」
「いや英雄ではないですね、旅人」
「変わってるねー! 世界は広い! でもそんなすごい能力があるんなら君もいつか英雄に選ばれるかもしれないよ! なんてったって、蟹の英雄がいるくらいだ……」
「蟹に英雄がいるの!? 僕も英雄になれるかな!?」
「はっはっは、なれるともなれるとも。小蟹ちゃんなら大丈夫さ」
「む、僕こう見えて成体なんだけどな~」
「はは、それは失敬」
「じゃあ、その本一冊ください」
「いいとも!」
「お代は……えーと」
「お、その硬貨。どこのだい? 見たことない金属でできてるね。お代はそれ一枚でいいよ」
「えっそれは申し訳ないのであるだけもらってください。あとこれも」
「えっ……悪いよ。あとこの紙ペラはいらないよ」
「えっ……じゃあとりあえず硬貨はあるだけ」
俺は財布に入っていた硬貨(一円玉だ)をジャラジャラと商人に押し付ける。
「悪いね、こんなもらっちゃって……おまけにこの石つけとくよ。この前石魔法使いにもらった特別な石だ」
「おお」
俺は石が好きなので純粋に嬉しい。石はなんか灰色の水晶っぽいやつだ。
「なんでも星くずの属性が入っているという、星魔法使いのお墨付き」
「ほう」
「ちなみにこの前来店したダブルクラスの英雄はそれ見ておいしそう! 砂糖菓子みたい! とはしゃいで仲間に止められていた」
「ほう……?」
愉快な英雄もいるんだな。
「別の英雄が連れていた子狐もその石をじっと見つめていたな。動物なりに良さがわかるのかもしれないね」
この店やたら英雄がよく来るな!?
「英雄お墨付きの店なんだよ~そりゃあやっぱね、努力の結果かね」
「英雄は英雄を呼ぶ。英雄作家の本や石魔法使いの石などを置いていれば自然と英雄が集まるでしょうっ! 英雄騎士団も出入りしている!」
「び、びっくりした、いきなり出てこないでよ編集者さん」
「そのうち概念の英雄が訪れる日も近いかもしれませんよ!」
「あーあの噂の? 一目見てみたいもんだねぇ」
「概念の英雄か……」
「いるって話だよ。深い海の色をして、淡く輝く身体をしているとか」
「概念ー!」
蟹は嬉しそうにハサミをしゃきしゃきさせる。
「こらこらあんまりはしゃぐなよ」
「元気でいいことですなぁ」
「元気は素晴らしい! 私も毎日元気ですよ!」
「編集者さんはいいから!」
「じゃあ俺たち、行きますね」
「ああ! またご贔屓にー!」
手を振って、本を小脇に店を出る。
「概念の英雄だって! じゃあこの穴は……」
目の前に、青く輝くワームホール。
突然俺の部屋に現れたそれに蟹が入ってみようと誘うので入ったらこんなところに繋がっていたというわけ。
「その英雄さんが作ったのかなぁ」
得体の知れない穴に入るのは若干怖いところもあったが、蟹が楽しそうだしそれなら悪いものではないかと通ったのだ。
「……楽しかったか?」
「うん!」
「じゃ、帰るか」
穴に入った次の瞬間、俺たちは自分たちの部屋にいて、先ほどまであった穴はもうなくなっていた。
「また行きたいね!」
「どうかな……でも、」
あの世界の「英雄」はこの世界の「蟹」なのかもなとふとそんなことを思った。
「本?」
「今話題の英雄作家の書いた本だよ、絶妙に重い設定がツボ」
頭の上に載せていた蟹が身を乗り出す。
「へえ、そういうのもあるんだね」
「あんまり乗り出すなよ、落ちるぞ」
「落ちないもーん、大丈夫です」
「しゃ、しゃべった……!?」
「あ、俺の蟹、喋るんですよ」
「へえー! そんじゃ君、英雄様?」
「いや英雄ではないですね、旅人」
「変わってるねー! 世界は広い! でもそんなすごい能力があるんなら君もいつか英雄に選ばれるかもしれないよ! なんてったって、蟹の英雄がいるくらいだ……」
「蟹に英雄がいるの!? 僕も英雄になれるかな!?」
「はっはっは、なれるともなれるとも。小蟹ちゃんなら大丈夫さ」
「む、僕こう見えて成体なんだけどな~」
「はは、それは失敬」
「じゃあ、その本一冊ください」
「いいとも!」
「お代は……えーと」
「お、その硬貨。どこのだい? 見たことない金属でできてるね。お代はそれ一枚でいいよ」
「えっそれは申し訳ないのであるだけもらってください。あとこれも」
「えっ……悪いよ。あとこの紙ペラはいらないよ」
「えっ……じゃあとりあえず硬貨はあるだけ」
俺は財布に入っていた硬貨(一円玉だ)をジャラジャラと商人に押し付ける。
「悪いね、こんなもらっちゃって……おまけにこの石つけとくよ。この前石魔法使いにもらった特別な石だ」
「おお」
俺は石が好きなので純粋に嬉しい。石はなんか灰色の水晶っぽいやつだ。
「なんでも星くずの属性が入っているという、星魔法使いのお墨付き」
「ほう」
「ちなみにこの前来店したダブルクラスの英雄はそれ見ておいしそう! 砂糖菓子みたい! とはしゃいで仲間に止められていた」
「ほう……?」
愉快な英雄もいるんだな。
「別の英雄が連れていた子狐もその石をじっと見つめていたな。動物なりに良さがわかるのかもしれないね」
この店やたら英雄がよく来るな!?
「英雄お墨付きの店なんだよ~そりゃあやっぱね、努力の結果かね」
「英雄は英雄を呼ぶ。英雄作家の本や石魔法使いの石などを置いていれば自然と英雄が集まるでしょうっ! 英雄騎士団も出入りしている!」
「び、びっくりした、いきなり出てこないでよ編集者さん」
「そのうち概念の英雄が訪れる日も近いかもしれませんよ!」
「あーあの噂の? 一目見てみたいもんだねぇ」
「概念の英雄か……」
「いるって話だよ。深い海の色をして、淡く輝く身体をしているとか」
「概念ー!」
蟹は嬉しそうにハサミをしゃきしゃきさせる。
「こらこらあんまりはしゃぐなよ」
「元気でいいことですなぁ」
「元気は素晴らしい! 私も毎日元気ですよ!」
「編集者さんはいいから!」
「じゃあ俺たち、行きますね」
「ああ! またご贔屓にー!」
手を振って、本を小脇に店を出る。
「概念の英雄だって! じゃあこの穴は……」
目の前に、青く輝くワームホール。
突然俺の部屋に現れたそれに蟹が入ってみようと誘うので入ったらこんなところに繋がっていたというわけ。
「その英雄さんが作ったのかなぁ」
得体の知れない穴に入るのは若干怖いところもあったが、蟹が楽しそうだしそれなら悪いものではないかと通ったのだ。
「……楽しかったか?」
「うん!」
「じゃ、帰るか」
穴に入った次の瞬間、俺たちは自分たちの部屋にいて、先ほどまであった穴はもうなくなっていた。
「また行きたいね!」
「どうかな……でも、」
あの世界の「英雄」はこの世界の「蟹」なのかもなとふとそんなことを思った。