たぬきかきつねのロンサムサバイブ

「ねえたぬきくん」
「……何だ」
「そういうね、気を遣うとか……僕にはいらないんですよ」
「なぜだ。気は遣わなければいけないものだろう」
「だって僕はきつねですよ? あなたはたぬき。同じヒトを化かす者同士じゃないですか」
「たぬきときつねは昔から敵対してきたと聞いたが」
「そういうの終わりって言ったでしょ。もうないんですよそんな決まりは。っていうか僕たちももう旅の仲間でしょ」
「そうだが……」
「安心してくださいよ、僕は君を嫌いになったりしない」
「な、」
 どうしてそのことを?
「会ったときからずっと僕の表情伺ってるでしょ。ぶっきらぼうなふりして僕のこと信頼できるか試そうとしてる。わかるんですよそういうの。僕だってきつねですからね」
 確かに、きつねは聡いというが。
「信頼できないでしょうね。僕はきつねですから。きつねはヒトを化かすもの。そして今の君はヒトだ」
「……お前だってヒトだろう」
「ヒトになってもきつねはきつね。たぬきはヒトになれるが、きつねはいつか剥がれるんですよ」
「そんなこと誰が決めたんだ」
「世界の理ですよ」
「それは壊れないものなのか」
「壊れませんねぇ」
「だが、お前がヒトになれなくたってお前はきつねだろう。それじゃ駄目なのか」
「わかってない、わかってませんよあなたは。だって……」
 きつねは黙り込む。
 ややあって、
「とにかく、僕に気を遣うのはよしてください。嫌われるかもとか疑うのもなし。嫌いませんから」
「だが……」
「気にしてしまう? まあそれでもいいでしょう。とにかく、僕が君を嫌うつもりはないってわかってくれたらいいんです」
「む……」
 そう言ったきつねの顔はどこか真剣で、初対面の人を食ったような雰囲気が消え失せていたものだから。
 俺は、うん、と言ってしまった。
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