たぬきかきつねのロンサムサバイブ

『それで、さっき言いかけたことは何だったんですか?』
『いや』
『どうぞ』
『きつね たまに まがお』
「……」
 きつねの口が動く。が、声は出ない。
『きつねという存在はそういうものなんですよ。ふと真顔になるものなんです。謎めいてるでしょ?』
『はあ』
『ずっとにこにこしてるよりも、そっちの方がきつねらしいと思いませんか?』
 謎の理屈で片付けようとする。
『なあ そっちこそ おれを しんらいしてないんじゃ ないのか』
『まさかぁ。僕はたぬきくんのことを信じてますよ、この上ないくらいにね。きつねの神に誓ってもいい』
 勝手なことを言う。どうせ神なんて信じてないくせに。
『神なんて信じてないくせにって思いました?』
「……」
『ははは。でも、僕がたぬきくんのことを信じているのは本当ですよ。素直バカな君のことを信じないわけがない』
 そういう話じゃないんだがなと思ったが、うまく言葉にならない。
「……」
『ほーら、むっつりはやめですよやめ。ほらほら、正面に建物見えてきたじゃないですか。ポータル取って、先行きましょ』
『む』
 正面に目をこらすと、うっすら建物の輪郭らしきものが見える。
 ポータルを取って先に進むみたいなやつ、なんか旅の恒例行事みたいになってるけど何なんだろうな。そう言いたかったが、長文を出すのが面倒だったのでやめる。
『ほらまた黙る~』
『ちょうぶん めんどい』
『そんなこと面倒がってたら、声を出すのが面倒になって無言になっちゃうヒトと同じになっちゃいますよ』
『おなじでいい』
『コミュニケーション、大事!』
『わかってる』
『喋ってくださいよぉ、長文でもちゃんと待ちますからぁ』
「……」
 そこで俺は思い至る。そういえば、きつねは俺が狸火を出している間に割り込むということはなかった。にやにやすることはあっても、基本的に待ってくれていた。なんだ、こいついい奴か?
『僕がいい奴なのは最初からわかってたじゃないですかぁ』
『おまえ』
『たぬきくんの考えてることくらい、顔見ればわかりますって』
 表情が顔に出にくくて何考えてるかわからないってよく言われてきたんだが俺は。
『ほら、つきましたよ』
 きつねが建物を見上げる。いつもの、白い遺跡のようなもの。
『いこうか』
『ええ』
 建物の中に入ってすぐにオブジェがあった。
『同時に触る作戦で行きましょ。カウントダウンするので、合わせてください』
『わかった』
 3カウントダウンはうまくいき、俺たちは同時にオブジェに触れた。
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