たぬきかきつねのロンサムサバイブ
「あれ」
「あれ?」
「ここ、どこだ?」
「しっかりしてくださいよ、たぬきくん。樹海ですよ」
「いや、そうじゃなくて、俺たち今この瞬間まで村にいたよなって」
「ああ、そんなことですか」
「いや普通びっくりするだろこんな、急に景色切り替わったら」
「転移ですよ」
さらりと答えるきつね。キャラ崩さないのを徹底してるのか何なのか知らないが、この冷静さ。俺も少しは見習った方がいいのだろうか。いやさすがにそれは無理だ。
「びっくりしないのか?」
「びっくりしてますよ?」
「ほんとか?」
「たぬきくんが思うほど僕の内面はクールじゃないですよ」
「それもほんとか?」
「どうでしょうね?」
また煙に巻く。
「で、樹海? なんで俺たちは急にそんなところに転移してしまったんだ?」
「知りませんよ」
「知らないのか」
「きつねは万能じゃないんですよ」
「知らないにしては冷静じゃないか?」
「急に転移したからって僕が慌てに慌てたら君、どう思います?」
「どうも思わないけど」
「嘘でしょ」
「すまん、嘘だ」
「本当は?」
「何か悪いものでも食ったのかって心配になる」
「でしょお? まあ僕はきつねで知恵があるので悪いものは食べませんけど。たぬきくんとは違ってね。そこんとこよろしく」
「む、俺だってそんな、悪いものとか食わないぞ」
「本当ですかぁ? どうせサラリーたぬき時代とか、土日何も食べずに寝て過ごして、深夜に起きてお腹空いたからって賞味期限も確認せずに冷蔵庫に入ってたコンビニスイーツ食べて次の日お腹こわ」
「なんで知ってるんだよ!」
「きつねなので」
「いやマジでなんで!」
「君みたいな単純な獣の行動原理なんてすぐわかりますよぉ、簡単簡単」
「俺のプライバシーとかも守ってくれ、誰かが聞いてたらどうするんだ。見ろ、なんか前方にバーらしきものも見えるだろ」
バー?
自分で言って自分で疑った。
樹海に、バー?
誰が来るんだそんなとこ?
「樹海にもバーくらいありますよぉ。地元の獣が利用するんでしょ。せっかくだし、入ってみましょ。おいしいお酒とかあるかもしれませんし」
「えっ俺酒飲めないんだけど」
「たぬきくんはミルクでも飲んどけばいいんですよ」
「ミルク単体そんな好きじゃない」
「じゃあそこにコーヒーとか入れてもらえばいいでしょ」
「砂糖も欲しい」
「甘党ですね?」
「砂糖入れないのか?」
「最初は入れずに飲みません?」
「いや苦いだろ」
「そんなんじゃコーヒーの味がわかりませんよぉ」
「お前だってスタパ飲むくせに」
「スタパって飲むというよりはファッションじゃないですか?」
「えっ何それ。店とか食べるために行くだろ」
「はーい理解の断絶。これ以上の会話は無とみなしまーす」
「壁張るのやめろよぉ」
「いいからいいから」
きつねはバーのドアをこんと叩いた。
「たぬきくん、開・け・て・ください」
「む」
ドアを引く。開かない。
何かが引っかかっている。見ると、ツタ。
「これ、開くのか? っていうかこのバー開いてるのか?」
「OPENって札かかってるでしょ。開いてますよ」
ツタは思ったよりも強く張っていて、なかなか開かない。
「えい」
きつねがツタを切った。
見ると、左手だけ獣化させている。
「おおすごい」
「すごいでしょ」
「器用だな……」
「ふふん」
自慢げに口角を上げるきつね。
「さ、入りましょ」
「おう。お邪魔しまーす……」
ドアを開け、店内を見回し、俺は固まった。
「あれ?」
「ここ、どこだ?」
「しっかりしてくださいよ、たぬきくん。樹海ですよ」
「いや、そうじゃなくて、俺たち今この瞬間まで村にいたよなって」
「ああ、そんなことですか」
「いや普通びっくりするだろこんな、急に景色切り替わったら」
「転移ですよ」
さらりと答えるきつね。キャラ崩さないのを徹底してるのか何なのか知らないが、この冷静さ。俺も少しは見習った方がいいのだろうか。いやさすがにそれは無理だ。
「びっくりしないのか?」
「びっくりしてますよ?」
「ほんとか?」
「たぬきくんが思うほど僕の内面はクールじゃないですよ」
「それもほんとか?」
「どうでしょうね?」
また煙に巻く。
「で、樹海? なんで俺たちは急にそんなところに転移してしまったんだ?」
「知りませんよ」
「知らないのか」
「きつねは万能じゃないんですよ」
「知らないにしては冷静じゃないか?」
「急に転移したからって僕が慌てに慌てたら君、どう思います?」
「どうも思わないけど」
「嘘でしょ」
「すまん、嘘だ」
「本当は?」
「何か悪いものでも食ったのかって心配になる」
「でしょお? まあ僕はきつねで知恵があるので悪いものは食べませんけど。たぬきくんとは違ってね。そこんとこよろしく」
「む、俺だってそんな、悪いものとか食わないぞ」
「本当ですかぁ? どうせサラリーたぬき時代とか、土日何も食べずに寝て過ごして、深夜に起きてお腹空いたからって賞味期限も確認せずに冷蔵庫に入ってたコンビニスイーツ食べて次の日お腹こわ」
「なんで知ってるんだよ!」
「きつねなので」
「いやマジでなんで!」
「君みたいな単純な獣の行動原理なんてすぐわかりますよぉ、簡単簡単」
「俺のプライバシーとかも守ってくれ、誰かが聞いてたらどうするんだ。見ろ、なんか前方にバーらしきものも見えるだろ」
バー?
自分で言って自分で疑った。
樹海に、バー?
誰が来るんだそんなとこ?
「樹海にもバーくらいありますよぉ。地元の獣が利用するんでしょ。せっかくだし、入ってみましょ。おいしいお酒とかあるかもしれませんし」
「えっ俺酒飲めないんだけど」
「たぬきくんはミルクでも飲んどけばいいんですよ」
「ミルク単体そんな好きじゃない」
「じゃあそこにコーヒーとか入れてもらえばいいでしょ」
「砂糖も欲しい」
「甘党ですね?」
「砂糖入れないのか?」
「最初は入れずに飲みません?」
「いや苦いだろ」
「そんなんじゃコーヒーの味がわかりませんよぉ」
「お前だってスタパ飲むくせに」
「スタパって飲むというよりはファッションじゃないですか?」
「えっ何それ。店とか食べるために行くだろ」
「はーい理解の断絶。これ以上の会話は無とみなしまーす」
「壁張るのやめろよぉ」
「いいからいいから」
きつねはバーのドアをこんと叩いた。
「たぬきくん、開・け・て・ください」
「む」
ドアを引く。開かない。
何かが引っかかっている。見ると、ツタ。
「これ、開くのか? っていうかこのバー開いてるのか?」
「OPENって札かかってるでしょ。開いてますよ」
ツタは思ったよりも強く張っていて、なかなか開かない。
「えい」
きつねがツタを切った。
見ると、左手だけ獣化させている。
「おおすごい」
「すごいでしょ」
「器用だな……」
「ふふん」
自慢げに口角を上げるきつね。
「さ、入りましょ」
「おう。お邪魔しまーす……」
ドアを開け、店内を見回し、俺は固まった。