たぬきかきつねのロンサムサバイブ

「すまん」
「は?」
「化かされて、お前を置いて突っ走った」
「えーそんなこと気にしてたんですか?」
「気にするだろ、そんなの……一匹で、こんなところで、心細いに決まってる」
「はっ」
 きつねは笑った。
「ずっと一匹だったんですよ。今更ちょっと一匹になったぐらいで心細くなるわけないでしょ。僕を何だと思ってるんです?」
「いや……いや、とにかくすまん」
「いいですっていいですって、たぬきという生物が阿呆なのは知ってますから」
「……」
「そして君はその中でも群を抜いた阿呆でしょ、素直バカ」
「……」
「化かされても仕方ないんですよ。当然。だから君が申し訳なく思う必要はないんです。そんなことより君、化かされて落ち込んでるでしょ。わかるんですよそういうの。ほらほらきつねに話してみてくださいよ」
「……む……む、」
 本当にその話でいいのか? こいつは、きつねは今、何か、いつもと違うような、でも俺は怖くて言えなくて、嫌われたくないから、嫌わないってこいつは言ったけど、もし俺が踏み込んできつねのそれを壊してしまったら、俺は……何と言えばいいのかわからなくなるし、壊れた関係性を修復できる自信もない。だから俺は、俺は……
「俺が、化かされたのは俺の自業自得だし、始めからいなかったものに対して何かをしたって無駄だとは思うけど、それは俺が馬鹿だったからで、仕方ない、仕方ないんだ、そんなこと対して俺が傷付いただの何だのって、でも、」
「でも君の気持ちは本当だったでしょ」
 続けようとした言葉を無視して被せるきつね。
「化かされてたって何だって、君が子供を助けようとしたのは本当でしょ。それは君が優しいってことじゃないんですか」
 優しくなんかない。だって俺は。
「優しいんですよ。それでいいでしょう」
「……」
「言っとくけど、君が僕に何かできるとか思わないでくださいね。無理だから。一介のたぬきごときがきつねをどうこうできるはずがない。君は今何か余計なこと考えてるみたいだけど、無駄なんですよ。馬鹿が何を考えても馬鹿なんですから無意味です。わかったら余計なことを考えるのは……」
 そこまで言って、きつねは黙った。
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