シティ・ユーヘルズ室内録 ~ぼっち陰キャ系リモワ社畜吸血鬼アンバーは今日もゆく~

 外はお祭り騒ぎだがこの部屋の中じゃ派手な事件もドラマも起こらない。
 それが俺の日常だぜ。

 俺はアンバー。シティ・ユーヘルズに住んでいる吸血鬼だ。
 吸血鬼と言ってもそんな怖いもんじゃない。なんてったって吸ってる血は人工血液だからな!
 他の吸血鬼はパートナー作るなり友達からもらうなりして普通に血を吸ってるみたいだが、俺、友達いないから……いいもん人工血液も色々味変できるしいいもん。

 友達、ネッ友は数人いるんだがリアル友人はいないねほんとに。なんでかなー、昔から友達できないんだよな、ぼっち系吸血鬼。なんでかなー俺こんなにフレンドリーなのに。
 いや嘘つきました、知らない人の前ではすごい暗いです。だって知的生命体怖いし。みんな俺のことを嫌うんだもん! 俺あんなフレンドリーだったのに!

 みたいなことをね、誰も読まない日記に書いてるのはね、なんでかっていうと……案件の締め切りが近いんだよ。
 案件の締め切りが近いのになんで日記を書いてるのかって?
 HAHAHA、そりゃテスト前に部屋の片付けをするあの心理と同じさ兄弟。ぎりぎりになればなるほど別の作業がしたくなる。息抜きだしいいじゃん?
 みたいなのが適用されるのは最初のうちだけで、日記書く前はSNSしてたしその前はネトゲしてたし普通にそのー……休憩がメッチャ長くなってるぜ! それが俺さ! イッツアンバー!

 というところでデスクトップアプリの通知が届く。
『アンバー仕事してる?』
 ネッ友のスケールだ。
『し、してるよぉ?』
 と返信を返す。
『へえ~えらいねえ。僕は今終わったとこ』
『お、そうなのか。お疲れ様』
『アンバーはこれからまだ仕事続けるの?』
『えっ……続けるかな! 締め切り明日だし!』
『それは大変だねえ。邪魔しないよう、僕はもう落ちるね』
『え!』
『仕事頑張って。おやすみ~』
 そう言い残してスケールはオフラインになる。
「あー!」
 思いっきり嘘をついてしまったのが申し訳なくて俺は頭を抱える。
 だってよぉだってよぉ、咄嗟にこう……わかるかこう……だって「してない」とか言えないじゃん! スケールの前ではかっこつけてたいんだよ俺は……俺の人生で一番最初にできた友達なんだよスケールは! かっこいいとこ見せたいし、しっかりした吸血鬼に見せたいだろ! その割にはどもった返信をしてしまったけどそれはこう……嘘をつくことへの罪悪感か何かだと思ってくれればいいです。そうです。

「あー! ……仕事しよ!」

 俺は日記を閉じ、デスクトップに向かい合う。
 明日の朝締め切りで今は夜。
 アンバーが明日メッセージくれる頃にはとっくに終わってるはず……仕事終わったんだって報告したいし頑張ろう!
 たぶん朝までかかるけどね……うわあ……。
 うわあネトゲしたい! ソシャゲしたい! SNSしたい! 仕事終わったって報告したい!
 そうだよだから頑張る……そうだよそうだよ、頑張れアンバー! セルフデスマになっても明日は来るさ!
 と自分を鼓舞して。

 そんな感じの毎日を送っている。
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