雪と世界と「もの」と俺と(番外編)
刺さっている。抜けることはない。
それは責め立てて、責め立てて、責め立てる。
正体はわからない。本当は何も刺さってなどいないのかもしれない。
けれどそれはずっと昔から俺のことを責め立てて責め立てた。
昔。昔というものが俺にあるのかどうかはわからない。もう全て忘れたと思っていた、忘れたならば思い出さなくともいいとも思っていた。
けれど昔はふとした拍子に蘇る。
例えば、昔のノートを見つけたとき。
理解できなければよかったと思う、けれど理解できてしまう、それはあくまでそこに「いる」のが昔の「自分」であるからなのか、せめて他人であったなら理解もせずに済んだのか、わからない。
わからなくていい。
とにかくこれを埋めなければならない。どこか遠くの雪の中に。
雪の中に埋めてどうなるか、なんてことは知らない。春になったら出てくるじゃないか、なんて文句も知らない。
永遠に埋めておきたいものは概念の雪の中に埋めればいい。
そう聞いた。
いつ聞いたのかは忘れた。ただ、その言葉だけが俺の心に浮いていた。
概念の雪がどこにあるかは知らない。探さなければ。けれど旅に出るような気力も体力もなかった。
概念の雪は見つからない。けれど燃やすこともできない。燃やせば記憶が立ち現れてしまう。炎の形となって目の前に現れた記憶はきっと俺のことを焼き尽くすだろう。
それならどうする?
裏側に隠す。
俺は裏返して、裏返して、裏返して、裏返した。
そうして見つけた箱の中にそれをしまって蓋をする。離れる。忘れる。
ほら、こうすれば大丈夫だ。何も怖いことはない。記憶は忘れ去られ、二度と出てくることはない。安心していいんだ。大丈夫だ。
俺は箱のことをつとめて忘れようと頭を回転させる。回転。回転。薄れてゆく記憶。遠ざかってゆく。白くなって、雪の中、奥深くに埋まってゆく。
もう何もしなくていい。
けれどご飯は食べなければならない。
とても作るような気力はなかったので、買い置きの携帯食料を開けて食べた。
味についてのコメントは差し控えておく。
その夜見た夢は二度と思い出したくないようなもので、朝になって煮こごりのような残滓が消えてゆくのを感じながら永遠の冬のことを思った。
それで終わり。
それは責め立てて、責め立てて、責め立てる。
正体はわからない。本当は何も刺さってなどいないのかもしれない。
けれどそれはずっと昔から俺のことを責め立てて責め立てた。
昔。昔というものが俺にあるのかどうかはわからない。もう全て忘れたと思っていた、忘れたならば思い出さなくともいいとも思っていた。
けれど昔はふとした拍子に蘇る。
例えば、昔のノートを見つけたとき。
理解できなければよかったと思う、けれど理解できてしまう、それはあくまでそこに「いる」のが昔の「自分」であるからなのか、せめて他人であったなら理解もせずに済んだのか、わからない。
わからなくていい。
とにかくこれを埋めなければならない。どこか遠くの雪の中に。
雪の中に埋めてどうなるか、なんてことは知らない。春になったら出てくるじゃないか、なんて文句も知らない。
永遠に埋めておきたいものは概念の雪の中に埋めればいい。
そう聞いた。
いつ聞いたのかは忘れた。ただ、その言葉だけが俺の心に浮いていた。
概念の雪がどこにあるかは知らない。探さなければ。けれど旅に出るような気力も体力もなかった。
概念の雪は見つからない。けれど燃やすこともできない。燃やせば記憶が立ち現れてしまう。炎の形となって目の前に現れた記憶はきっと俺のことを焼き尽くすだろう。
それならどうする?
裏側に隠す。
俺は裏返して、裏返して、裏返して、裏返した。
そうして見つけた箱の中にそれをしまって蓋をする。離れる。忘れる。
ほら、こうすれば大丈夫だ。何も怖いことはない。記憶は忘れ去られ、二度と出てくることはない。安心していいんだ。大丈夫だ。
俺は箱のことをつとめて忘れようと頭を回転させる。回転。回転。薄れてゆく記憶。遠ざかってゆく。白くなって、雪の中、奥深くに埋まってゆく。
もう何もしなくていい。
けれどご飯は食べなければならない。
とても作るような気力はなかったので、買い置きの携帯食料を開けて食べた。
味についてのコメントは差し控えておく。
その夜見た夢は二度と思い出したくないようなもので、朝になって煮こごりのような残滓が消えてゆくのを感じながら永遠の冬のことを思った。
それで終わり。