短編小説(2庫目)

 積んでいる途中の塔をじっと見る。
 黒くてぴかぴか光るパーツの中に、半透明の白いパーツが混じった塔。
 復讐だけで塔を積むことは不可能だった。そもそも俺がそんなに強くない。根がお人好しなのだ。日和ってしまう。
 そのせいで、復讐の塔には風化した元々のパーツが混じってしまっている。
 どうせ復讐で塔を積むなら思い切って普段使わないようなパーツを使ってしまえばいいのに、この平原は貧困だからそんなパーツは落ちていない。
 仕方がないんだ。どこにでもある平原、平凡すぎるのが悪い。
 と、平原のせいにするのは簡単だ。
 貴重なパーツを使いたいなら海にでも山にでも行けばいいのにそれをしないのは俺が出不精というか、ここから離れたくないからだ。
 ここは平原。始まりの場所であり、終わりの場所でもある。俺はここから始まって、ここから去ることになっている。そんな平原。
 塔を積むのはもう終盤で、終盤にしたいから、あとは去るだけにしておきたい。平原以外の場所に行って本気で塔を積むなんてことはしたくない。
 塔を積むのはこの終わった世界での俺の余生なのだから。
 なんてことはどうでもよくて、ただ塔を積むだけ。塔さえ積んでいれば解放される。塔さえ積んでいれば忘れられる。そう思っている。
 塔の前で起きて、塔の前で寝る。朝になったらまた塔を積んで、そこから始めて……
 いつになったら終わるのかという問いはもう何度も繰り返している。いつになったら終わるのか。わかるはずがない。俺はこの塔の完成形を知らないのだから。
 ただただひたすら塔を積む。いなくなってしまった人々のことを考えたり考えなかったりしながら塔を積む。俺にそれを忘れろと言った、もういない魔王のことを考えながら塔を積む。魔王を殺せと言った王のことを考えながら塔を積む。滅び行くこの世界から一人逃げた王のことを。
 復讐。
 それは誰への復讐なのだろうか。
 世界はもう滅んでいるのだから、世界に復讐することはできない。それならこの塔は誰に復讐したいのか。
 俺自身?
 突如現れた黄緑色のパーツを塔の重要部分に取り付けながら俺は思う。
 いつか解放される日が来るとしても、俺はここを離れないのかも。
 そんなことが「どうでもいい」ことであったとしても、人間そう簡単に死ぬことはできない。勇者も簡単に死ぬことはできない。
 塔はただ、高くそびえていた。
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