短編小説(2庫目)

 睡眠時間が延びている。

 初めはそう思ってはいなかったのだが、だんだんわかってきた。
 ストレスがかかると睡眠時間が増える。
 そして、食卓の前に生えた足も増えるのだ。

 足は元々増えていたのだが、俺のストレスの増加に連動しているような気がしてならない。
 それとも足が増えるから俺のストレスが増加しているのだろうか。

 たくさんの足は家族には見えていないようだし、本当は俺の気が狂っているだけだったらどうする?
 どうするもこうするもない。そのときは足を全て引っこ抜いて……いや、グロいのは苦手なので無理だな。やめよう。

 だが足を全て消すことができたら俺は嬉しい。とても嬉しい。
 足は俺の気など知ることもなくがやがやと騒ぐしうねうねと動く。
 参ってしまう。
 足は足なのだから俺の気を知ることがないのなど当然なのだが。

 そんなことはどうでもいいんだ。
 問題は睡眠時間が増えているということ。
 このまま睡眠時間が無限に増え続けたら俺はどうなる? 家はどうなる?
 完全に足に占拠されてしまって何もできなくなるかもしれない。
 家族も足になってしまうかもしれない。
 そのときは……一つの家庭が終わったということで、諦めてくれないか。
 諦めてくれないか?
 誰に向けてこの文を書いているのか。
 自分かもしれないし、足かもしれない。
 本当は俺の家だけがまだ無事で、全ての家庭は足に占拠されてしまったのかもしれない。
 外に出ても足があるかもしれないし、コンビニに行っても足があるかもしれないし、俺の会社も実はもう足だらけになっているのかもしれない。
 知らない。わからない。
 足がどれだけ侵食しているかなんてことは外に出ないとわからないし、もう随分長いこと外になんて出ていないのだからわかるはずもない。

 流行り病と足。
 その二つに俺の周囲は占拠されつつあるのだ。

 何もかもが侵食してくる。身を守る術はない。
 ふと空いた時間にそれらは入ってくる。足。足。足。
 足は喚く。足は走る。長く長く伸びて、それらは去らない。
 俺がおかしいのか、周囲がおかしいのか。
 そんなことを考えることにさえ疲れてしまって、だからこんなに眠いのか。

 睡眠時間は延々と延びる。
 こんなに眠って過ごしても人は人でいられるんだと感慨を覚えてしまうほどには延びている。
 どうするか、なんてわからない。
 病は止まらない。足はなくならない。
 何もかもに打つ手がなくなると人間は無力感に支配されて、病む。
 病んだからこうなっているのかこうなったから病んだのか、そんなことはタマゴニワトリなので。

 何もかもに意味がないように思えて、人生で通り過ぎてきた誰にも顔向けできない。
 己にすら。
 だから寝ているのかな。

 そんなことはどうでもいいんだ。
 と言い聞かせることで俺は己を保っているのかも。
 いずれにせよ、今日はもう眠る時間だ。
 あっという間に眠る時間になる。
 明日もきっと短いのだろう。

 と鳴いていた。
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