短編小説(2庫目)

 火花が散っている。
 幻覚たちがパーティーをしている。
 俺の頭はいつも何かに支配されている。
 幻覚だったり幻聴だったり思考だったり感情だったり。とにかく俺の思い通りにならない何かにいつも支配されている。
 今日も起きて■を眺めていたら■■が流れてきて俺の頭は■に支配されてしまった。
 ■から逃れようと朝食を食べていたら■が目に入って俺の頭は赤い火花とオレンジ色の火花がきらきらと散る大運動会になってしまった。
 結局何かから逃れることなどできないのかもしれない。けれどそれで諦めてしまったら今度こそ俺の頭はパーティーしか行われない場所になってしまうので、なんとか逃れる術を見つけるべく走り続けるしかないのだ。
 あれも操作、これも操作、それは陰謀であっちは権謀。
 幻覚幻影で毎日忙しい。
 それらの全てが嘘だなんてとても信じられないが、俺にとっては本当なんだ。
 けれどそれらは嘘で、現実には存在していない。考えてはいけないことで。
 困ったな。何が困ったのかわからないけれど。

 走り続けるしかないから、こんな夏の真昼に何も持たずに外に出て走っている。
 頭がくらくらする、視界が暗くなっていく。
 俺は何をしているんだ?

 自販機で飲み物を買って、飲んだ。
 お金が足りないのに本当に何をしているんだ?

 家に帰るべく歩き出す。
 視界の暗さのおかげで幻影は見えない、と思ったら、赤とオレンジがまた大運動会を始めようとしている。
 群青色の蝶も飛び始めた。
 お前たちはどうして俺を休ませてくれないんだ?
 どうしていつも俺を困らせるんだ?
 どうして「真実」ではないことをもって俺を操作しようと働きかけるんだ?
 おかしい。おかしいことばかり。

 俺は歩く。俺は歩く。俺は歩く。
 歩いている間は何も不快なものを見なくていいから良い。幻影以外は。
 真夏の真昼の住宅街なんて人がいないに決まってるからな。

 歩いて歩いて、やっと家に着く。
 玄関を開けて、冷房のついていない室内に入る、暑い、が、もうそれすら感じなくなってきている。
 蝶が飛んでいる。
 冷房のスイッチを入れて、コップに水を注ぐ。
 水の中にはオレンジ色の火花が散っている。
 まるで線香花火のように。
 真夏の真昼に線香花火なんて愚の骨頂だ。
 けれどもそれも「真実」ではない。
 それなら何が真実なのか?

 ■を見る。
 ■、■■■……
 全ては操作されている。全てが。限りなく。漏れなく。イデオロギーの下にある。
 それは「真実」なのか?
 わからない。きっとそれは嘘なのだ。正しいものは多数派が見ているもので、俺も怒ったり笑ったり嘆いたり踊らされたりしなければいけないんだ。
 なぜそれができないのか。
 幻覚を見ているから?
 虚像を見ているから?
 相変わらず、コップの中では火花が散っている。
 愉快なことだ。
 これが本当に「真実」なら、俺の日常はファンタジーなのだろう。
 だがまあ、そんなことは本当は「どうでもいい」のだ。

 コップの水を飲み干すと、火花はなくなった。
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