勇者と魔法使いの相互無理解ライフ
「勇者ちゃん、今日も浮かない顔してるわね」
「放っておいてくれ、俺はどうせこんな顔だよ」
「勇者ちゃん結構イケメンだと思うけどねえ。そんな顔してちゃイケメンが台無しよ」
「なっ……」
勇者はアタシを真正面から見、それから目をうろうろとさせて、そっぽを向いた。
なんだ、コイツかわいいとこもあるじゃない。
相変わらずアタシの顔が直視できなかったみたいだけど。コイツがアタシの顔を嫌いってことぐらい知ってるわよ。本人は気付かれてないと思ってるみたいだけど。
「……帰る」
「帰るってどこに?」
「部屋」
「あ、そ」
アタシは勇者を見送った。
もう何日もこの宿で留まってるけど、討伐とかしなくて大丈夫なのかしらねえ。
まあ、アタシの知ったことじゃないけど。勇者ちゃんは王様からお金いっぱいもらってお金には困らないみたいだし、アタシはアタシで細かな雑用をこなして稼いでるし、別にいいかって感じ。
そもそも討伐はアタシがやってるし。
「魔法使いさん」
宿のボーイが声をかけてくる。
「なーに?」
「最近周辺でミルアホークが増えてきて困っています」
「あ、討伐?」
「話が早くて助かります」
「いいわよ、場所を教えて」
◆
ミルアホークが増えているというその場所は、近くの森だった。
霧が深い森。
まあアタシには透視魔法があるから困らないけど。
森の入り口に立ち、透視魔法で見通して、見つけたミルアホークを遠隔氷魔法で凍らせる。
凍ったミルアホークは使い魔に回収させる。
それを繰り返す。
アタシの目の前にはいい感じに冷凍されたミルアホークの山ができた。
ふと思う。
「勇者ちゃん……これ食べるのかしら」
適度に討伐できたと思ったので、アタシは宿に帰った。
「早かったですね」
「仕事はちゃんとこなしたわよ。はい、これ冷凍ミルアホーク」
「うわっ……すごい数ですね」
「勇者ちゃんの食事にでも出してやって、アイツ毎日鶏肉の野菜煮込み食べるでしょ」
「あ……そうですね。最近鶏肉の減りが早いってオーナーがこぼしてたので……ありがたい、そうします。それで、報酬は」
「いつも通りの額でいいわよ。夕食の時にでも渡してちょうだい」
「わかりました」
ボーイが頭を下げる。
アタシは片手をひらっと挙げて、部屋に戻った。
そういえば、勇者ちゃんはどうしてるかしら。
◆
勇者の部屋に顔を出すと、勇者は剣を振っていた。
引きこもってるように見えて、ちゃんとトレーニングはしてるのね。
「ハーイ」
「……何の用だ」
「勇者ちゃんがどうしてるかしらと思って」
「用がないなら来ないでくれ」
「まあ、なんてこと言うの。パーティーメンバーなんだからちょっと様子を見に来るぐらいいいじゃない」
「……」
勇者は黙って、また剣を振り始める。
「たまには外に出ないと、カラダが鈍るわよ」
「……お前は何をしてたんだ」
「アタシ? アタシは討伐」
「討伐?」
「どうせ毎日暇だし、やることもないし、引き受けてるのよ。この辺の討伐」
勇者は剣を振る手を少し止め、こっちを向いて
「……へえ」
と言った。
「感心しちゃった?」
「別に」
ホントかわいげのない子ねえ。構い甲斐がないけど……さっきみたいな面白い顔を見せてくれるんならたまには遊びたいわ。なんて思うけど、表には出さないでおきましょ。
「今日もあの料理、食べるの?」
「決まってるだろ」
「たまには違うもの食べないと、栄養が偏るわよ」
「栄養バランスは取れてるから大丈夫だろ」
勇者は片手で剣をくるくると回す。筋力だけはあるのねえ。
「……今日は化粧してるんだな」
「アナタがアタシのメイクを気にする日が来るとは思わなかったわ。惚れちゃった?」
「は?」
勇者は片眉を上げる。
「あら、愛想ナシ。メイクに興味があるなら教えてあげるわよ」
「あるわけないだろ、そんなの」
「メイクすればそのクマも隠せるわよ~イケメンになるわよ」
「どうせ俺はクマが深いよ」
「あらあら、卑屈になっちゃって」
「どうしてお前はメイクをするんだ」
いきなりどうしたのかしら、そんなこと訊いて。
「どうしてって……キレイでいるためよ」
「フン」
鼻で笑っちゃって、やっぱり腹の立つ子ね。
「じゃ、アタシは行くわ」
「……」
別れの挨拶ぐらいしてくれてもいいじゃない。
まあ……いいわ。コイツにそんなこと期待してないし。
アタシはじゃあね、と手を振って、勇者の部屋を出た。
◆
それからアタシは街をちょっと散策して、新作コスメをチェックしたり服を見たりしてる間に夕食の時間になった。
「いただきまーす」
「……」
いただきますぐらい言えばいいのにまたこの子はいけない子ね。
勇者はいつものように鶏肉の野菜煮込みを口に運んで、
「………」
黙り込む。
「あ、いたいた、魔法使いさーん」
ボーイがアタシたちを見つけて近付いてくる。
アタシはボーイに手を振って応える。
「はい、今日の報酬です」
「ありがと。……はい、確かに」
中身を確認し、袋を返す。
「勇者さん、今日の料理はどうですか?」
ボーイが勇者に声をかける。
「……悪くはないな」
「今日の鶏肉は魔法使いさんが取ってきてくださったんですよ」
「は?」
勇者が顔色を変える。
「魔法使いさんがミルアホークを討伐してくれたんです、今日の鶏肉はそのミルアホーク。おいしいでしょ」
「………」
勇者は再び黙り込んだ。
「あれ、まずかったですか?」
「……………」
「ミルアホーク、お嫌いでした?」
「………いや………」
「お嫌いなら明日から出しませんけど」
「いや、美味しい、と思う」
「あら~! 嬉しいこと言ってくれるわね!」
「お前には言ってない」
「美味しいんでしょアタシが取ったミルアホーク」
「黙れ」
「ふふ……」
アタシはにこにこして勇者を見つめた。勇者が目を逸らす。
いつもなら気になるそれも今日はそこまで気にならなくて、こんな日々なら別に続いてくれてもいいかもしれないわね、とちょっと思って、ボーイにありがとってお礼を言ったわ。
「放っておいてくれ、俺はどうせこんな顔だよ」
「勇者ちゃん結構イケメンだと思うけどねえ。そんな顔してちゃイケメンが台無しよ」
「なっ……」
勇者はアタシを真正面から見、それから目をうろうろとさせて、そっぽを向いた。
なんだ、コイツかわいいとこもあるじゃない。
相変わらずアタシの顔が直視できなかったみたいだけど。コイツがアタシの顔を嫌いってことぐらい知ってるわよ。本人は気付かれてないと思ってるみたいだけど。
「……帰る」
「帰るってどこに?」
「部屋」
「あ、そ」
アタシは勇者を見送った。
もう何日もこの宿で留まってるけど、討伐とかしなくて大丈夫なのかしらねえ。
まあ、アタシの知ったことじゃないけど。勇者ちゃんは王様からお金いっぱいもらってお金には困らないみたいだし、アタシはアタシで細かな雑用をこなして稼いでるし、別にいいかって感じ。
そもそも討伐はアタシがやってるし。
「魔法使いさん」
宿のボーイが声をかけてくる。
「なーに?」
「最近周辺でミルアホークが増えてきて困っています」
「あ、討伐?」
「話が早くて助かります」
「いいわよ、場所を教えて」
◆
ミルアホークが増えているというその場所は、近くの森だった。
霧が深い森。
まあアタシには透視魔法があるから困らないけど。
森の入り口に立ち、透視魔法で見通して、見つけたミルアホークを遠隔氷魔法で凍らせる。
凍ったミルアホークは使い魔に回収させる。
それを繰り返す。
アタシの目の前にはいい感じに冷凍されたミルアホークの山ができた。
ふと思う。
「勇者ちゃん……これ食べるのかしら」
適度に討伐できたと思ったので、アタシは宿に帰った。
「早かったですね」
「仕事はちゃんとこなしたわよ。はい、これ冷凍ミルアホーク」
「うわっ……すごい数ですね」
「勇者ちゃんの食事にでも出してやって、アイツ毎日鶏肉の野菜煮込み食べるでしょ」
「あ……そうですね。最近鶏肉の減りが早いってオーナーがこぼしてたので……ありがたい、そうします。それで、報酬は」
「いつも通りの額でいいわよ。夕食の時にでも渡してちょうだい」
「わかりました」
ボーイが頭を下げる。
アタシは片手をひらっと挙げて、部屋に戻った。
そういえば、勇者ちゃんはどうしてるかしら。
◆
勇者の部屋に顔を出すと、勇者は剣を振っていた。
引きこもってるように見えて、ちゃんとトレーニングはしてるのね。
「ハーイ」
「……何の用だ」
「勇者ちゃんがどうしてるかしらと思って」
「用がないなら来ないでくれ」
「まあ、なんてこと言うの。パーティーメンバーなんだからちょっと様子を見に来るぐらいいいじゃない」
「……」
勇者は黙って、また剣を振り始める。
「たまには外に出ないと、カラダが鈍るわよ」
「……お前は何をしてたんだ」
「アタシ? アタシは討伐」
「討伐?」
「どうせ毎日暇だし、やることもないし、引き受けてるのよ。この辺の討伐」
勇者は剣を振る手を少し止め、こっちを向いて
「……へえ」
と言った。
「感心しちゃった?」
「別に」
ホントかわいげのない子ねえ。構い甲斐がないけど……さっきみたいな面白い顔を見せてくれるんならたまには遊びたいわ。なんて思うけど、表には出さないでおきましょ。
「今日もあの料理、食べるの?」
「決まってるだろ」
「たまには違うもの食べないと、栄養が偏るわよ」
「栄養バランスは取れてるから大丈夫だろ」
勇者は片手で剣をくるくると回す。筋力だけはあるのねえ。
「……今日は化粧してるんだな」
「アナタがアタシのメイクを気にする日が来るとは思わなかったわ。惚れちゃった?」
「は?」
勇者は片眉を上げる。
「あら、愛想ナシ。メイクに興味があるなら教えてあげるわよ」
「あるわけないだろ、そんなの」
「メイクすればそのクマも隠せるわよ~イケメンになるわよ」
「どうせ俺はクマが深いよ」
「あらあら、卑屈になっちゃって」
「どうしてお前はメイクをするんだ」
いきなりどうしたのかしら、そんなこと訊いて。
「どうしてって……キレイでいるためよ」
「フン」
鼻で笑っちゃって、やっぱり腹の立つ子ね。
「じゃ、アタシは行くわ」
「……」
別れの挨拶ぐらいしてくれてもいいじゃない。
まあ……いいわ。コイツにそんなこと期待してないし。
アタシはじゃあね、と手を振って、勇者の部屋を出た。
◆
それからアタシは街をちょっと散策して、新作コスメをチェックしたり服を見たりしてる間に夕食の時間になった。
「いただきまーす」
「……」
いただきますぐらい言えばいいのにまたこの子はいけない子ね。
勇者はいつものように鶏肉の野菜煮込みを口に運んで、
「………」
黙り込む。
「あ、いたいた、魔法使いさーん」
ボーイがアタシたちを見つけて近付いてくる。
アタシはボーイに手を振って応える。
「はい、今日の報酬です」
「ありがと。……はい、確かに」
中身を確認し、袋を返す。
「勇者さん、今日の料理はどうですか?」
ボーイが勇者に声をかける。
「……悪くはないな」
「今日の鶏肉は魔法使いさんが取ってきてくださったんですよ」
「は?」
勇者が顔色を変える。
「魔法使いさんがミルアホークを討伐してくれたんです、今日の鶏肉はそのミルアホーク。おいしいでしょ」
「………」
勇者は再び黙り込んだ。
「あれ、まずかったですか?」
「……………」
「ミルアホーク、お嫌いでした?」
「………いや………」
「お嫌いなら明日から出しませんけど」
「いや、美味しい、と思う」
「あら~! 嬉しいこと言ってくれるわね!」
「お前には言ってない」
「美味しいんでしょアタシが取ったミルアホーク」
「黙れ」
「ふふ……」
アタシはにこにこして勇者を見つめた。勇者が目を逸らす。
いつもなら気になるそれも今日はそこまで気にならなくて、こんな日々なら別に続いてくれてもいいかもしれないわね、とちょっと思って、ボーイにありがとってお礼を言ったわ。