短編小説(2庫目)

 積む。
 ずっと積んできた。
 何があっても何がなくても積んできた、積むしかできないから積んできた。
 何を積んでいるのかは知らない。石かもしれないし、本かもしれないし、ペンかもしれない。俺は積んでいるものの正体を知りはしないのだ。半透明の固い物体。
 蟹がやってきて、積むのをやめたらと言った。俺はそれを断って積み続けた。
 ■■がやってきて、俺をそれから引き離した。俺は心の中でそれを積んだ。
 心の中で積んでいるうちにそれが心の中だけのものなのかそれとも現実なのかわからなくなってきて、積んでいる、それなら積んでいるんだ。
 何もかもわからなくなったころ、俺は一人になった。
 ■■はいなくなった。
 ふらふらと元の場所に戻ってみると、崩れた山が待っていた。
 半透明の物体は雨風にさらされ劣化、白濁してしまっていた。
 俺はそれらを懸命に元に戻そうとしたが、戻らなかった。
 仕方がないので劣化した物体を積んだ。
 積む側から壊れていく、数が足りない。俺は探した、しかし駄目だった。
 何がなくとも積んできた、何かあっても積んできた。
 それが終わりに近づいている。
 世界はとうに滅んでしまい、残っているのはこの場所と俺だけ。
 ■■もきっと、死んでいるのだ。
 そう思いたいのに■■が生きていることを俺は知っている。どうして知っているのかって? そんな気がするからだ。
 滅んだ世界でも生き延びている■■が■くて、物体を握り締めそうになって、やめる。
 劣化した物体は脆く、少し力を加えるだけで壊れてしまうからだ。
 俺は物体を地面に置き、大きなため息を吐いた。
 都合の悪いことばかり起こる。それならこの世界は俺のことをどう思っているというのだ?
 どうも思っちゃいない。世界に意思はない……だが社会に意思はある。
 そんなことはどうでもいいんだ、どうでもいい。気にしても仕方がない。
 だが……
 俺はそのとき初めて空を見上げる。
 紅く染まっていた。
 ほんとうの終末。
 それが来る。
 結局、中途半端なところで終わってしまった。
 半端な山、劣化した物体、壊れた残骸を抱えて俺は終わりゆく。
 ■■が生き延びるのかどうかは知らない。
 どうでもいいことだった。
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