短編小説(2庫目)

 宇宙船W-XX8号の出発に向けて、発着ロビーではインタビューが行われている。
「宇宙に森は持っていくことができないと聞いたのですが、本当ですか?」
「ええ、本当です。宇宙に森を持っていくことはできません。生態系を壊してしまいますからね」
「宇宙に生態系があるのですか?」
「無論、宇宙には宇宙木というものがあり、宇宙を旅しているのです」
「宇宙木ですか」
「ええ」
「地球の森を持っていってしまうと、宇宙木はどうなるのですか?」
「森でないものなら問題ないのですが、本当の森を持っていってしまうと情報汚染されてしまいます」
「情報汚染されるとどうなるのですか?」
「何もかもが明らかになってしまいます」
「何もかもが明らかになるのですか」
「そうです」
「こわいですね」
「こわいです。だからあなたもそのトランクに隠し持っている森を捨ててください、今すぐにです」
「ばれてしまってはしょうがない」
 インタビュアーがトランクをばさりと開け、中から森が、
「あっ何をするんですか、やめて! そのまま出すと何もかもが汚染されてしまいます!」
『認識汚染が確認されました』
 ぷしゅう。
 天上からノズルのようなものからさっと出、森に向かって白い粉のようなものが噴射される。
 瞬く間に森は真っ白で覆われた。
「危ないところでしたね」
「ははあ。対策は万全ということですか」
「ははあじゃありませんよ。この森はうちが責任を持って自然に返しておきますが、危ないことはやめてください」
「すみません」
「わかればいいんです」
 宇宙飛行士はため息を吐き、インタビュアーは懐に隠した「森でないもの」をそっと撫でる。
「あ、森でないものなら大丈夫なので」
「ははあ」
 森でないものはぶるる、と震え、本当の森は台車に載せられ遠ざかっていった。
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