短編小説(2庫目)

 雪は消え、雪原だったところは凍った土で埋められた。
 泥……それを持っている、ことはジャミングされている。固まっている。
 ジャミングの果てに待つのは凍結だ。凍結されると自分のことが何もわからなくなる。わからなくなった原因すらもジャミングされているから、凍結した自分を見ておかしいなあなんとかしないと、わからない、蛙のところに行かないと、とかなんとかうじうじ悩む羽目になる。
 蛙のところは遠い。何せここは凍土。蛙は凍土には住めない。温暖な場所に住んでいる。交通費と雑踏がかかってしまうのだ。
 凍った土が地平線まで広がる凍土は広く、空は青く、薄い雲がずっとかかっている。
 融けることは許されない。外に出ることは許されない。凍結し、固まったままで一生を過ごすのだ。
 そこで積んでいる、石を積んでいる。空から落ちてきた石をただ積んでいる。
 石の数は少なく、崩す側から消えてゆく。石は減る、減って、仕方がないからまた呼ぶ。呼んでも滅多に落ちては来ない、だから頼む、頼んで、神託は消えたので、丁寧にお願いするのだ。
 土の下にいる、寒くて暗い土の下にいる。自分がどこにいるのかわからない、空の下かもしれないし、土の下かもしれない。それらは全て概念的で、真実ではなく事実でもないが、現実ではある。
 夢であるのかもしれない。夢にしてはリアルすぎるが。
 夢が力を失うとそれが現実になるのだろうか。現実が力を増しすぎるとそれは夢になるのだろうか。
 思考は石とするには弱すぎて、凍結するには薄すぎる。蒸発して雲となって消えてゆく運命なので繋ぎ止めるために凍土に文字を書く……■で。
 書いても書いても側から消えてゆく、書いた上からさらに書くのでぐちゃぐちゃになってわからなくなる。そういうものなのだ。世界は。
 だからどうだという話だ。
 俺が凍土に住んでいるからって世界は何も変わらないし、その他の人々だってそうだ。俺が凍土に住んでいるという事実は他の人間に何一つ影響を与えやしない。
 与えてもらっては困るのだ。なぜなら、俺が影響を与える、ということはつまり迷惑であるから。
 そんなことを誰が言った? 俺以外に生物のいない世界で俺にそれを教えたのは……
 凍結する。知ってはいけないことだったから。
 知っている、が、気付いてはいけない、見てはいけない。それらは全て凍結される。
 摂理が埋めて、土の下。
 今日も、無い石を積む。透明な石を積む。
 固まった土の下にはきっと俺が思っているほど泥はないんだ。
 そうであればよかったのにな。
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