短編小説(2庫目)

「蟹」
「きみ、いたのかい」
「それはこっちの台詞だ、無事だったのか」
「人類はみんな滅びたと思っていたよ」
「俺は生きてるが」
「まあパートナーは生き続ける……そういう世界だから」
「世紀末だな……」
「そうでもないよ、今世紀が始まって20年と少し経ってる」
「マジな返ししなくていいから」
「そうだね」
「ああ」
 間。
「で、きみはどうするの」
「どうするって、生きてるんだから生きるしかないだろ」
「まあ、そうだね」
「蟹、お前はどうするんだ」
「どうするか、ね……」
「一緒に生きてくれるのか」
「それもいいけど……」
 ちら、とこちらを見る蟹。
 なんで蟹がこっちを見たのかわかるかって、そりゃまあもう、慣れだ。
「きみを……」
 そこで言葉を切る、蟹。
「……」
「……」
 しゃき、とハサミが鳴る。
「でもまあ、一緒に行こうか。完全に滅ぶまでは」
「ああ、それがいい」
「うん」
「それが終わったらお前も一人だ……いや、一匹か」
「どうかな」
 蟹は天を仰ぐ。
「案外二人かもしれないよ」
「はは」
 俺は笑う。
 
 二人だった。
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