短編小説(2庫目)

 積んでいる。積んでいる。
「えいっ! どすっ!」
「うわっ!?」
 何が起きたかわからなかった。
 目の前には横倒しになった塔、てっぺんから土台までを何かで串刺しにされている。
「な……何をするんだ!」
「え? 串、通しただけだよ」
「いやこれ……困るんだが……」
「困る? 何が困るの?」
「いや……こういうことされると崩せないし、積み直せないし……」
「困らないよ、ほら」
 目の前の影がひらりと手を振る。
 河原。
 地面から、透き通った石が出てくる。
「な、な……」
「新しい石があれば大丈夫!」
「お前は一体……」
「あの時助けていただいた影ですって言ったらびっくりする?」
「影? 助ける?」
 全く身に覚えがないのだが。
「君に覚えがなくても僕にはあるのさ。じゃあ」
 そう言って歩き出そうとする存在、「影」? を俺は呼び止める。
「待ってくれ」
「何を?」
「……」
 俺は考え込む。待ってくれとは言ったが何を待ってくれなのか。
 何を?
「わからない……」
「わからない? でも、待ってって言うなら待たなくもない……ちょっとだけ遊ぼうか」
「遊ぶ?」
「石を組んで遊ぶんでしょ。当然」
「あ、ああ……」
 それから俺と影は石を組んで「遊んだ」。
 組んではばらし、組んではばらし。
 一人で積んでいるときはわからなかった、色々な組み方があった。
 上に積むだけじゃない、横に組むこともできるということ。そして、新たな構造も。
「……今日は楽しかったね!」
「む……」
「また呼んで」
「呼ぶ……?」
 俺は影を呼んだだろうか。どこからともなく現れたこいつを。
「また来るから」
「む、む……あの、」
「ん?」
「ありがとう」
「うん!」
 影は薄れ、消える。
 後には河原が広がるだけ。
 だが……何もない、よりは、ずっとよかった、と思った。
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