概念サバンナの今日たち
ライオンと戦う夢を見た。
うさぎが褪せる夢を見た。
◆
外はもう暗い。
電灯を点けた部屋の中、黒いぷよぷよたちが小さく揺れていて、俺は布団の上でぼうっとそれを眺めている。
ご飯を食べなければ。
そういえば、もうずっと何も食べていなかったような気がする。
部屋の隅、食品置き場からカップ麺を取り、ポットに湯を沸かす。
ぼんやりと待っていると、湯が沸いた。
容器に湯を入れる。
再びぼんやりと待つ。眠くはない。
箸を取り、蓋を開ける……俺は麺を食った。
麺もスープもあっという間になくなった。
それはそうだ、何も食べていなかったのだからそうもなる。
黒いぷよぷよたちに目をやる、いなくなる様子はない。
サバンナはいったいどうなっただろうか。
布団に入り、黒が揺れる中、目を閉じた。
◆
サバンナ、ライオン。
あんなに降っていた雪は既に消え、サバンナは在り、ライオンも在り、うさぎは死んで褪せている。
ライオンをじっと見る、不足、不足、不足。
それがどうした、そんなものはただの現実。現実は現実であるがゆえに力を持たない。
最も力を持つものとはまやかしであり、夢である。なればこそ、人は地獄にあっても幸せでいられる……
そうなのだろうか。
地獄は地獄であり、何をどうしようが変えることのできない「真実」、そうではなかったのか?
おそらくどちらも真なのだろう。どちらもそれなりに力があり、どちらもそれなりに裏表であり、俺にとって確からしい、もしくは「信仰事項」。
俺はライオンを見る。ただの現実。色のない事象。
現実に勝つことはできない、それらはただ過ぎるだけ。俺が俺であり続ける限り、現実もまたそこにあるのだ。ライオンがいることが不幸なのではない、ライオンがいることは事実であり、それを見て苦しむことが不幸なのだと……
詭弁だ。現実などジャミングで忘れられるならそうしたい。現実には必ず評価が、己自身の評定がついて回り、いくら割り切ろうとしても悟りでもしなければ逃げられない。ジャミングがしたい、雪を降らせ、その方が明るく生きられるから。
けれど忘れても解決にはならない。現実をジャミングして気にしないふりをしたってなかったことにはならず、先延ばしになるだけだと知っている……うさぎのことはそうだった。
かつてうさぎの死の喪を消し、善であると思い続けたことによってまやかしたちは抑圧され、抑圧されたそれらは力を持って俺を襲った。
うさぎの死の抑圧は何もかもを雪原に変え、辺り一面冬になった。
長い冬は何年も続いた、何年も何年も。
サバンナに雪はない、あるのはジャミングの雪だけ。
そうしてライオンを直視した俺は正気という名の狂気に落ちた。
狂気が悪なのではない。正気が悪なのでもない。どちらかに振り切ることだけが真実ではない。
俺にとって一番都合の良いものは忘却の快晴でも絶望の雨でも底抜けの晴れでもなく、おそらく「曇り」なのだ。
曇りは不安定、可能性の現れ、雲の中にこそ意思が存在する。
なれば俺は認めよう。
サバンナは曇りで、曇りであるがゆえに、今日も明日も明後日も、生きていたって構わないのだと。
◆
目を覚ます。黒いぷよぷよが心配そうに俺を見ている。
昼過ぎ。そろそろ起きてもいいだろう。
カーテンの隙間から外を覗く、雪は融け、天候は──
曇り。
伸びをしてカーテンを開ける。
今日は何を食べようか。
おそらくきっと、そんな風に日常は回っていくのだ。
うさぎが褪せる夢を見た。
◆
外はもう暗い。
電灯を点けた部屋の中、黒いぷよぷよたちが小さく揺れていて、俺は布団の上でぼうっとそれを眺めている。
ご飯を食べなければ。
そういえば、もうずっと何も食べていなかったような気がする。
部屋の隅、食品置き場からカップ麺を取り、ポットに湯を沸かす。
ぼんやりと待っていると、湯が沸いた。
容器に湯を入れる。
再びぼんやりと待つ。眠くはない。
箸を取り、蓋を開ける……俺は麺を食った。
麺もスープもあっという間になくなった。
それはそうだ、何も食べていなかったのだからそうもなる。
黒いぷよぷよたちに目をやる、いなくなる様子はない。
サバンナはいったいどうなっただろうか。
布団に入り、黒が揺れる中、目を閉じた。
◆
サバンナ、ライオン。
あんなに降っていた雪は既に消え、サバンナは在り、ライオンも在り、うさぎは死んで褪せている。
ライオンをじっと見る、不足、不足、不足。
それがどうした、そんなものはただの現実。現実は現実であるがゆえに力を持たない。
最も力を持つものとはまやかしであり、夢である。なればこそ、人は地獄にあっても幸せでいられる……
そうなのだろうか。
地獄は地獄であり、何をどうしようが変えることのできない「真実」、そうではなかったのか?
おそらくどちらも真なのだろう。どちらもそれなりに力があり、どちらもそれなりに裏表であり、俺にとって確からしい、もしくは「信仰事項」。
俺はライオンを見る。ただの現実。色のない事象。
現実に勝つことはできない、それらはただ過ぎるだけ。俺が俺であり続ける限り、現実もまたそこにあるのだ。ライオンがいることが不幸なのではない、ライオンがいることは事実であり、それを見て苦しむことが不幸なのだと……
詭弁だ。現実などジャミングで忘れられるならそうしたい。現実には必ず評価が、己自身の評定がついて回り、いくら割り切ろうとしても悟りでもしなければ逃げられない。ジャミングがしたい、雪を降らせ、その方が明るく生きられるから。
けれど忘れても解決にはならない。現実をジャミングして気にしないふりをしたってなかったことにはならず、先延ばしになるだけだと知っている……うさぎのことはそうだった。
かつてうさぎの死の喪を消し、善であると思い続けたことによってまやかしたちは抑圧され、抑圧されたそれらは力を持って俺を襲った。
うさぎの死の抑圧は何もかもを雪原に変え、辺り一面冬になった。
長い冬は何年も続いた、何年も何年も。
サバンナに雪はない、あるのはジャミングの雪だけ。
そうしてライオンを直視した俺は正気という名の狂気に落ちた。
狂気が悪なのではない。正気が悪なのでもない。どちらかに振り切ることだけが真実ではない。
俺にとって一番都合の良いものは忘却の快晴でも絶望の雨でも底抜けの晴れでもなく、おそらく「曇り」なのだ。
曇りは不安定、可能性の現れ、雲の中にこそ意思が存在する。
なれば俺は認めよう。
サバンナは曇りで、曇りであるがゆえに、今日も明日も明後日も、生きていたって構わないのだと。
◆
目を覚ます。黒いぷよぷよが心配そうに俺を見ている。
昼過ぎ。そろそろ起きてもいいだろう。
カーテンの隙間から外を覗く、雪は融け、天候は──
曇り。
伸びをしてカーテンを開ける。
今日は何を食べようか。
おそらくきっと、そんな風に日常は回っていくのだ。
13/13ページ