短編小説(2庫目)

「何書いても、何書いても白々しい説教ばかり生産される。俺も歳を取ったかな。
 ひきこもりながら小説を書いても、内にこもったものしかできやしない。
 溜め込んだものは若いうちに全部使ってしまって、俺はもう空っぽだ。
 心にも身体にもガタが来ている。
 俺はもう、駄目なのかもしれない。
 人生は駄目になってからの方が長いとSNSで誰かが言っていた。
 俺はもう駄目なんだ。
 
 ノイズが走る。

 そうだ、お前は駄目だよ。何もかも駄目になっちまった。それもこれも██のせいで、お前はそれを恨まなきゃいけない。
 ノイズが走る。

 俺は何かを誰かのせいになんてしたくない。

 また、ノイズ。

 だったらお前のそのトラウマは何だ? 明らかに██や██のせいでできたとラウマを、誰かのせいにしたくないなんて綺麗ごと言って何になる?
 それでも誰かのせいにしたくないならそれは全部、お前のせいだよ。
 ほら。こう言ってほしかったんだろ。お前のせいだ。よかったな。俺に出てきてほしくないんだろ。わかってる。俺はお前の半身。お前がころしたお前の半身だもんな。

 強引に主導権を取り返す。

 身も蓋もない。
 俺はあいつを始末したのであって、ころした、だなんて直接的な言葉を使うのは違う。
 俺の役に立たないから教育して、教育しても直らないから。

 強烈なノイズが走る。

 だから殺した。
 そうだろ。
 ぱ、と離されるように発言権が渡される。
 それっきり、あいつは何も喋らなかった。
 俺は。どうすればいいんだよ。
 あいつは、俺があいつをころしたと思い込んでる。確かにそうだ、治療によって俺はあいつをころした、ような。

 存在しない記憶がある。

 あいつが、俺を、よろしく頼みます、と頭下げる場面。危ないことがあればまた出ます、とも。
 本当にそんな場面はあったんだろうか?
 俺の夢、幻想だったのかも。
 忘れてしまったんだ。
 治療中のことはぼんやりしていて、霞のように確かでない。

 違う、違うと声が呼ぶ。

 俺は確かに言ったよ。それがお前の中にあるなら確かに、それは認めていいことなんだろう。

 自然、俺は問う。

 それでもそれが幻想だっていう可能性が少しでもあるなら信じていいのか不安だし、そもそもお前という存在は俺の中に存在しているのか? それすら幻想だったかもしれないじゃないか。……なあ。もういいよ、これ以上喧嘩したって何もならない。俺とお前が言葉で分かり合える関係だったらもう、こんなことにはなってない。分裂して片方が片方を、ころす……なんて関係にはなってないじゃないか。勘弁してくれよ。こんな悩みからも、症状からも、俺を解放してくれよ。

 そうだ。

 そんなことしか書くネタが無いんだ。俺が分裂してるのは俺にとって当然のことで、フィクションでも何でもない事実なのにな。
 文字書きは自分の魂切り売りしてものを書いてる。俺も同じ。何もかも切り売りして、お前のことすらネタにして、その先は何だ?
 売れない作家? プロにすらなってないのに? ああ。プロとアマチュアの間には明確な差があるって誰かが言ってたな。それで俺は反省して、完成させたゴミみたいな小説を全部消したんだ。
 なあ。
 お前はどこに行ったんだ?
 今喋ってるのは誰なんだ?
 俺は壊れてしまったのか?
 大変危険な状態です。
 入院をおすすめします。
 そんなわけがないだろう。
 入院をして薬を調整する。そうすれば健康になれます。

 確かにそう。

 だが俺のこれを治療する手立ては無いんだ。少しずつ宥めていくしか。
 なあ……何の話をしているんだ?
 みんなはどこに行った?

 『さあ。どこに行ったのでしょう?』」

 ……黒々しい嵐がやってきて、文字たちを巻き上げる。
 俺も、俺も、俺も、俺も、みんないなくなった。

「終わりだ。終わりなんだ」

 そうして█は書くのをやめた。
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