短編小説(2庫目)

 最近「だるいな……」と思うことが増えた。
 何がだるいか。
 それは俺にもわからない。
 案外言ってはいけないのかもしれないし、いいのかもしれないし。
 よくわからないんだ。俺自身のこと。

 ……俺は空を飛んでいなくなったことになっている。
 地上ではそう。
 空を、飛んで。
 何をしたんだっけ?
 なにぶん幽霊のご身分では記憶も霞のようなもので、吹けば飛ぶというが消え消えになっていて、無いのと同じだ。

 俺は空を飛んでいなくなった。
 地上で言われているそれらのことだけが俺のもう透けてしまった頭に残っている唯一のことで。
 地上を見る。
 すると、人々がわちゃわちゃやっている、好きだの嫌いだの、信じるだの信じられないだの。
 だるいな……と俺は思う。
 もう死んでしまった俺はそんなこと誰ともできないんだよ。何を言っても一人で終わるんだよ。負け犬の遠吠えより誰からも気にされない、気にされることができないんだよ。
 そうか。
 だるいな……というのは、羨ましいなという意味だったのか。
 まだ生きているあいつらが羨ましい。
 なかったことになっていないあいつらが羨ましい。
 その気になれば誰とでも話せる、可能性を持った奴らが羨ましい。
 たったそれだけのこと。
 ……だるいな。
 俺が、だるいんだ。だるいのは俺自身だった。
 なんて、死んでから気付いても同じこと。
 終わりなんだ。終わってしまったんだ。
 だから、独り言もこれでおしまい。

 生きてりゃほんとによかったな。

 おわり。
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