短編小説(2庫目)

「燃え上がるような恋がしたい!」
「何そのどこかのアニメのタイトルみたいな」
「どっちかというと映画のタイトルだと俺は自負している」
「で? 映画に詳しくない君が何吠えてるの」
「そ、その通りだが……」
 俺は眉を寄せる。
 燃え上がるような恋がしたい。
 そう思う時点でもう、枯れているのかもしれない。
 最近とんと恋などしていないのだ。
「僕という恋人がいながら恋? 相手に失礼だと思わないの?」
「そこはお前に失礼だと思わないの、だし、第一お前は恋人じゃない」
「親友ってのは魂の恋人じゃん!」
「仮にそうだとしてもだよ。お前とそういうことをする気はない」
「え! 僕にはあるのに!?」
「えっ」
「嘘だよ~」
「嘘か……」
 一瞬でも驚いてしまった自分が悔しい。
 ああ。それにしても、燃え上がるような恋がしたい。
 今年の冬は寒かった、極寒だった。それとともに俺の心も凍り付いてしまったのだろうか。恋なんて何年していないか、そもそも俺、初恋いつだっけ?
 ええと……
「はい。都合悪そうな話になるから僕が遮ってあげまーす」
「ええと……ありがとう」
「君ってば僕がいないと駄目なんだから~」
「それは肯定せざるを得ないな。お前には支えられることばかりで、卒業して社会人になったらどうなってしまうのか俺は自分が心配だよ」
「そこで僕への感謝じゃなくて自分の心配をするとこが君だなあって感じだよ」
「褒めてないだろ」
「褒めてないよ」
「はー……」
 っていうかあれだよ思い出した、俺の初恋は、
「はいストップ。止めてあげる」
「うわー!」
「遅かった」
 こいつなんだよなあ!
 目の前でにこにこと笑っている親友。
 本当に嫌だ。
 ああ、早く燃え上がるような恋がしたい。
 日常の何もかもを忘れさせてくれるような恋さえすれば、こいつのことも忘れられるのに。
「……筒抜けなんだよな~」
「え?」
「なんでもありませ~ん!」
 まだ寒い風が吹いていた、教養棟の屋上で、俺たち二人はそういう話をしていたのだった。
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