短編小説(2庫目)

「不幸だ不幸だってあなたはいつもそれだ」
「な、何だってんだよ」
「自分のことを不幸だと思ってるうちは幸福にはなれないよ」


 
「……なんて言うんだよ~……なー蟹い……どう思う?」
「ん~……君はどう思った?」
「俺はさ……幸福な奴にはわからないと思った」
「その相手の人は幸福なの?」
「わからない。幸福かもしれないし、不幸かもしれない」
「そっか」
「でも俺別に幸福になりたいわけじゃないんだよ」
「幸福の定義によるね」
「俺は平穏な生活がしたいんだ。それこそが俺の幸せであって、それなら俺の夢は蟹と過ごしてる今、もう叶ってるんだ」
「あら~」
 あら~と言いながら蟹が両ハサミをきゅ、と寄せる。
「嬉しいねえ」
「……」
「で、まあ。君はその人と比べて不幸だと思ってるんだ」
「思ってるよ、だってそいつは病気じゃないし。あ、でもあいつは医者に行くのが嫌いだから診断されてないだけで、本当は病気かもしれない。だとしたら俺もあいつも同じってことになって、いや……関係ない、腹立つんだよあいつ。いつも上から目線で自分の方が辛いですみたいな顔してさ」
「つまり、君はその人のことが嫌いってわけだ」
「嫌いだよ。縁を切ってやりたいよ」
「だったら切っちゃえば? 僕が切ってあげようか?」
「ん~……」
「どうする?」
「ここは……蟹に甘えるか」
「うん。不思議パワーがあるならそれに頼るのが一番いいよ。蟹がいなかったときとは違うんだから」
 ちょきん。と音がする。
 蟹が俺とあいつの縁を切った、のだろう。
 あいつは俺があげた本も全部捨ててしまうんだろうな。
 そう思うと、少しだけ腹が立った。
11/177ページ
    スキ