短編小説(2庫目)
「蟹~。聞いてくれ~」
「な~に~?」
「俺を置いてみんなが盛り上がってるのが面白くない」
「はあ……最低なこと言うね~!」
「自分でも最低なのはわかってるよ。でも面白くないんだ。この前も飲み会で俺の話題が出てたらしくて、あいつ最近顔出さないよな、どうしたんだって」
「それは心配されてていいんじゃない?」
「そう思うだろ? ところが違うんだ」
「え~?」
「メッセージアプリのアカウント消えてたしまた入院してるんじゃないかって話が出てたみたいで」
「君はその情報どこで得たの?」
「SNS」
「もうSNSやめな。SNSみたいな公共の場でそんなことわざわざ言う友達は友達じゃないよ」
「と思うだろ?」
「何が、と思うだろなの?」
「クローズドSNSなんだこれがね」
「うーん……いじめじゃないの? それ」
「だろ、思うだろ」
「それはそれとして、でもそんな友達とは縁切っちゃえばいいのに」
「縁切ったら俺に友人がいなくなってしまう。それは嫌だ」
「僕じゃだめなの?」
「蟹は友人というか同居人というか、同居蟹だろ」
「……選ばれてない人間との交流を許したの、間違ってたかな」
ぼそりと蟹が言う。
「え、何て言った?」
「ん~……何も。君はSNSほんとにやめた方がいいと思う」
「でもやっちゃうんだよなあ~! ハートとかつけられると俺、嬉しくて」
「そうやってドーパミンを出させて中毒にするんだよ」
「何その陰謀論」
「そんな言葉どこで覚えたの、メッ」
「メッされた」
「明日あたり、おでかけしよう? 外に出れば気も紛れるよ」
「ん~……そうかな」
「そうだよ。毎日蟹会社に通って土日は引きこもり、なんて退屈でしょ。会社には有給の連絡入れとくからさ」
「……わかった」
そして今日、金曜日。
蟹と俺は蟹神社に行き、ぱしぱしと手を合わせた。
「何お願いした?」
「ん~……世界平和」
「切実だねえ……物価とかも関係してくるからね」
「ああ。最近野菜から何から全てが高いからな……」
「……ま、現実をトレースしてるだけで、このレイヤーにはそう関係のない話なんだけど」
ざりざりと音がして、蟹の声はよく聞こえなかった。
「何だ?」
「なんでもありませーん。聞き取れなかったらそれはそれまで。そういう風になっている……僕のお願い知りたい?」
「あ、ああ……教えてくれ」
「君とずっと一緒にいられますように! 楽しい毎日がずっとずっと続きますように」
「……そりゃいい願い事だな」
「でしょ~?」
「まあ……俺としては楽しい毎日にあんまりずっと続かれても困るが」
「ん、なんで?」
「疲れるからな……」
「そっか。じゃ、ほどほどに続くのがいいね」
「そうだな」
俺は頷いた。
それから、冬なので甘酒を飲んだり、蟹お守りを選んだり、おみくじを引いて一喜一憂したりして、俺たちは楽しんだ。
こんな毎日ならずっと続いてもいい。
なんて思ってしまって、俺は蟹に負けたな。と心の中で独白した。
おわり。
「な~に~?」
「俺を置いてみんなが盛り上がってるのが面白くない」
「はあ……最低なこと言うね~!」
「自分でも最低なのはわかってるよ。でも面白くないんだ。この前も飲み会で俺の話題が出てたらしくて、あいつ最近顔出さないよな、どうしたんだって」
「それは心配されてていいんじゃない?」
「そう思うだろ? ところが違うんだ」
「え~?」
「メッセージアプリのアカウント消えてたしまた入院してるんじゃないかって話が出てたみたいで」
「君はその情報どこで得たの?」
「SNS」
「もうSNSやめな。SNSみたいな公共の場でそんなことわざわざ言う友達は友達じゃないよ」
「と思うだろ?」
「何が、と思うだろなの?」
「クローズドSNSなんだこれがね」
「うーん……いじめじゃないの? それ」
「だろ、思うだろ」
「それはそれとして、でもそんな友達とは縁切っちゃえばいいのに」
「縁切ったら俺に友人がいなくなってしまう。それは嫌だ」
「僕じゃだめなの?」
「蟹は友人というか同居人というか、同居蟹だろ」
「……選ばれてない人間との交流を許したの、間違ってたかな」
ぼそりと蟹が言う。
「え、何て言った?」
「ん~……何も。君はSNSほんとにやめた方がいいと思う」
「でもやっちゃうんだよなあ~! ハートとかつけられると俺、嬉しくて」
「そうやってドーパミンを出させて中毒にするんだよ」
「何その陰謀論」
「そんな言葉どこで覚えたの、メッ」
「メッされた」
「明日あたり、おでかけしよう? 外に出れば気も紛れるよ」
「ん~……そうかな」
「そうだよ。毎日蟹会社に通って土日は引きこもり、なんて退屈でしょ。会社には有給の連絡入れとくからさ」
「……わかった」
そして今日、金曜日。
蟹と俺は蟹神社に行き、ぱしぱしと手を合わせた。
「何お願いした?」
「ん~……世界平和」
「切実だねえ……物価とかも関係してくるからね」
「ああ。最近野菜から何から全てが高いからな……」
「……ま、現実をトレースしてるだけで、このレイヤーにはそう関係のない話なんだけど」
ざりざりと音がして、蟹の声はよく聞こえなかった。
「何だ?」
「なんでもありませーん。聞き取れなかったらそれはそれまで。そういう風になっている……僕のお願い知りたい?」
「あ、ああ……教えてくれ」
「君とずっと一緒にいられますように! 楽しい毎日がずっとずっと続きますように」
「……そりゃいい願い事だな」
「でしょ~?」
「まあ……俺としては楽しい毎日にあんまりずっと続かれても困るが」
「ん、なんで?」
「疲れるからな……」
「そっか。じゃ、ほどほどに続くのがいいね」
「そうだな」
俺は頷いた。
それから、冬なので甘酒を飲んだり、蟹お守りを選んだり、おみくじを引いて一喜一憂したりして、俺たちは楽しんだ。
こんな毎日ならずっと続いてもいい。
なんて思ってしまって、俺は蟹に負けたな。と心の中で独白した。
おわり。
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