短編小説(2庫目)

 ゆるして。そう書き残してあいつは消えた。
 似たようなこと言い残して消えた別人の話を知ってるが、それはフィクション。真実じゃない。
 あいつの言っていること、つまりは『何を許してほしいのか』。
 数年前、あいつは精神の病にかかって暴れまわった。その間の所業を許してほしいとのことらしい。
 毎日毎晩夢を見る、とあいつは言った。
 自分が傷つけた人々から責められる夢。
 もう縁も切れたんだし気にすることないだろって俺が言うと、「それでも僕は気にしてしまうんだ。罪悪感なんだ。大きな大きな罪悪感なんだ」
 と、返す。
「たくさんの人々が僕と縁を切ったんだ。僕の悪行のせいで」
「……」
「たくさんの人々が僕を恨んだんだ。僕の所業のせいで」
「……」
「ねえ、僕はもう耐えられない。僕のことを誰も知らない人しかいないところに僕はゆくよ」
「俺を置いて?」
「どうしても仕方ないことはあるんだ。最後まで付き合ってくれた君を置いていくのは心残りだけど……君はこんなことになった僕でもまだ付き合ってくれた。きっと来世もいいことあるよ」
「お前……もしかして」
「さあ。どうだろうね?」

 ……あいつが蒸発したのはXX日のこと。身内のいないあいつが唯一残していた連絡先がここだった。
 俺を現世との最後の窓口にしたんだな。
 雑務が増えたこと、正直俺は恨んでしまう。あいつは自分勝手なやつだった。
 それでも友人が消えて寂しくならない人間じゃあ、俺はなかったから。
 どうしてやればよかったのだろう。そんなことを考えても何もならなくて。あまりにも何もならないものだから、
 ……あいつは異世界に行ったんだ。
 そう思うことにした。
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