短編小説(2庫目)
子供のころに読んだ本に、神学生が鬱らしい病にかかって退学する話があった。
神学校というのが何なのか、子供の自分の俺にはわからなかったが、何かラテン語や他言語の綴りの勉強をしたり、当時の古典を学んだりするところなのだという認識だけはあった。
鬱。それに、作中の医者は「水薬、肝油、鶏卵、冷水摩擦」を進めていた。
現代ではとても、お笑い種のような治療法である。そんなことをしても鬱はよくはならないだろう。タンパク質を取れる鶏卵はともかくとしてだ。
なんて、分析している俺も鬱の治し方なんて知りはしない。とりあえず薬を飲んで休むといい、ということしか知らないのだ。
世の中には色々な病気があって、それにかかる人々は大方不幸でいる。不幸の形は千差万別。俺もおそらくはその範疇に入る。
だから俺のところに蟹がやってきたのだし。
俺は机の上ですやすやと居眠りをする蟹を見た。
「……ん~?」
「……」
「どうしたの~?」
「いや……鬱の治し方について考えていた」
「そんなこと考えても仕方ないよ~」
「仕方ない、ね……」
まあ、その通りではある。
考えたところで実践できるかどうかはわからないし、実践して治らなかったせいでますますひどくなるということもあるし。
「努力信仰ってのがあるだろ」
「あるね」
「鬱から努力して治った、みたいに思い込んで、ほかのまだ寛解してない奴らに根性論と叱りを押し付ける奴らが」
「いるんだね?」
「いる」
「なんか言われたの?」
「言われてはいない、見ただけで」
「どこで?」
「SNS」
「今日はもうSNSやめちゃいなさ~い。あれは毒だよ」
「そうかな……」
「脳が疲れちゃう。休ませないとほら、僕とおしゃべりでもしていよう」
「まだ夕方だぞ。一日の残りが長い……その間、話のネタが保つのかどうか俺は心配だ」
「だいじょーぶだいじょーぶ。僕の蟹学校でのくらしのことなどを話して差し上げましょう」
「蟹学校ね、蟹はその話が好きだな」
「青春時代だもん!」
「ははは」
俺は声を出して笑った。
そして、蟹の蟹学校のくらしの話をいくつも聞いた。
神学校というのが何なのか、子供の自分の俺にはわからなかったが、何かラテン語や他言語の綴りの勉強をしたり、当時の古典を学んだりするところなのだという認識だけはあった。
鬱。それに、作中の医者は「水薬、肝油、鶏卵、冷水摩擦」を進めていた。
現代ではとても、お笑い種のような治療法である。そんなことをしても鬱はよくはならないだろう。タンパク質を取れる鶏卵はともかくとしてだ。
なんて、分析している俺も鬱の治し方なんて知りはしない。とりあえず薬を飲んで休むといい、ということしか知らないのだ。
世の中には色々な病気があって、それにかかる人々は大方不幸でいる。不幸の形は千差万別。俺もおそらくはその範疇に入る。
だから俺のところに蟹がやってきたのだし。
俺は机の上ですやすやと居眠りをする蟹を見た。
「……ん~?」
「……」
「どうしたの~?」
「いや……鬱の治し方について考えていた」
「そんなこと考えても仕方ないよ~」
「仕方ない、ね……」
まあ、その通りではある。
考えたところで実践できるかどうかはわからないし、実践して治らなかったせいでますますひどくなるということもあるし。
「努力信仰ってのがあるだろ」
「あるね」
「鬱から努力して治った、みたいに思い込んで、ほかのまだ寛解してない奴らに根性論と叱りを押し付ける奴らが」
「いるんだね?」
「いる」
「なんか言われたの?」
「言われてはいない、見ただけで」
「どこで?」
「SNS」
「今日はもうSNSやめちゃいなさ~い。あれは毒だよ」
「そうかな……」
「脳が疲れちゃう。休ませないとほら、僕とおしゃべりでもしていよう」
「まだ夕方だぞ。一日の残りが長い……その間、話のネタが保つのかどうか俺は心配だ」
「だいじょーぶだいじょーぶ。僕の蟹学校でのくらしのことなどを話して差し上げましょう」
「蟹学校ね、蟹はその話が好きだな」
「青春時代だもん!」
「ははは」
俺は声を出して笑った。
そして、蟹の蟹学校のくらしの話をいくつも聞いた。
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